阪大,フェムト秒レーザー照射後の金属内部挙動観測

大阪大学の研究グループは,フェムト秒レーザー照射直後の金属材料内部の応力,ひずみ,塑性変形の複雑な挙動を示すことに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

フェムト秒レーザーは一般的には固体材料の微細加工や眼科治療,外科手術などに用いられるが,この数年の間に新しい加工法としてフェムト秒レーザー衝撃加工が開発されている。

金属材料にフェムト秒レーザーを照射したときに駆動する衝撃波をフェムト秒レーザー衝撃波と呼び,このフェムト秒レーザー衝撃波を利用した加工法がフェムト秒レーザー衝撃加工。

フェムト秒レーザー衝撃加工によって,物質中に特異な微細構造が作り出され,また,金属材料は鍛えられ強くなり壊れにくくなる。そのため,フェムト秒レーザー衝撃波の特性は,他の衝撃波の特性とは異なる可能性があると思われてきた。しかしながら,フェムト秒レーザー衝撃波による金属材料の変形は超高速であるため,その変形挙動を正確に捉えることはこれまで困難だった。

研究グループは,X線自由電子レーザー施設SACLAのX線自由電子レーザーを用いて,フェムト秒レーザーを照射し衝撃圧縮されて超高速で変形している途中の金属材料の原子の動きを調べた。

金属材料には,工業や地球科学の分野で重要な材料であることと,従来の衝撃圧縮下での挙動が十分に研究されていることから鉄を用いた。

フェムト秒レーザー照射後にX線自由電子レーザーを照射するタイミングを何通りも変えて,それぞれのタイミングにおけるX線回折パターンを取得した。こうすることによって,超高速の原子の動きを捉えることに成功した。

さらにその実験結果を理論的に解析することによって,フェムト秒レーザー照射直後の金属材料内部の応力,ひずみ,塑性変形の複雑な挙動を示すことに成功した。

その結果,フェムト秒レーザー衝撃波による変形の初期過程は,意外にも,従来の衝撃波によるものと同じであることが分かった。また,理論的に予測されていた応力波と歪み波のピークの時間的なずれを,初めて実験的に発見した。

さらに,応力波と歪み波のピークの間に塑性波のピークが存在するという,理論的にも予測されていなかった新しい発見もあった。

研究グループは,この研究成果により,長寿命材料の創成と構造物の延命を可能とするフェムト秒レーザー衝撃加工法のさらなる高度化と,それによるカーボンニュートラルおよび安全・安心社会の実現が期待されるとする。さらに,二律背反の関係にある強度と靭性を両立させる新規材料の設計に新たな道を切り拓くとしている。

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