徳島大学と宇都宮大学は,細胞内の様々な現象を明らかにする上で有用な蛍光寿命画像を,焦点の走査無く,一括して取得可能な手法を開発した(ニュースリリース)。
蛍光寿命顕微鏡は蛍光寿命を観測し,試料をマッピングする。蛍光寿命は実験条件に依存しないので,高い定量性が得られ,細胞内の蛍光分子の環境変化などを高感度に検出することができる。
しかし,蛍光寿命顕微鏡は点計測に基づいているため,画像取得には焦点位置の機械的走査(スキャン)が必要となり,高速な画像取得が制限されていた。
そこで研究グループは,蛍光寿命画像を焦点走査無く(スキャンレスで)高速に一括取得できる手法(デュアル光コム蛍光寿命顕微鏡)を開発した。この手法(デュアル光コムFLIM)では,以下の手順に従って,蛍光寿命イメージを取得する。
①周波数間隔がわずかに異なる2つの光コムのビームを空間的に重ねて干渉させ,明滅(変調)周波数が異なる44,400もの光ビート信号(デュアル光コム・ビート群)を生成する。これにより44,400個の光ストップウォッチが生成できる。
②44,400個の光ストップウォッチを2次元平面に整然と並べるため,まず、デュアル光コム・ビート群をVIPA(Virtually imaged phased array)に入射することにより,デュアル光コム・ビート群を複数のグループに分けて垂直方向に展開する。
③次に,複数のグループに分かれて垂直方向に展開されたデュアル光コム・ビート群を回折格子に入射することにより,各グループ内の光ビートを波長に応じて水平方向に分散させる。その結果,デュアル光コム・ビート群を構成する個々の光ビートが2次元空間に展開され,2次元の虹が形成される。
④この2次元の虹は,サンプルの全面を覆うように照明される。この時,位置毎に異なる周波数で明滅するので,周波数を計測すると位置を特定することができる。
⑤この同時照明によって蛍光が同時発生する。蛍光は,照明と同じ周波数で明滅するが,蛍光寿命に応じて位相がずれる。整然と並べられた44,400個の光ストップウォッチで,明滅の位相ズレの空間分布を同時計測する。
⑥明滅周波数とイメージ画素の対応関係から,蛍光寿命イメージを一括取得することができる。
同時計測性が担保された蛍光寿命イメージを取得することができるので,生きている細胞で内部の分子の動きをつぶさに観察することが可能になる。研究グループは,新型コロナウイルス診断の抗原検査などにも応用できるとしている。