信州大学は,カーボンナノチューブ(CNT)を始めとするナノ粒子がリンパ管の中でどのような動きを示し,リンパ管の生理的な動きに影響を与えるのかを評価するための実験システムの開発に成功した(ニューリリース)。
近年,ナノ粒子はドラッグ・デリバリー・システムや癌などを検出するバイオイメージング,再生医療など様々な医学的応用のために広く研究されている。ナノ粒子は体内に入ると多くがリンパ管に入ることがわかっており,ナノ粒子のリンパ管への影響を明らかにする必要があった。
研究では,ナノ粒子とリンパ管との相互作用を視覚的かつ定量的に解明し,ナノ粒子の生体安全性についての評価を可能にするために,摘出したリンパ管内腔灌流システムを初めて開発し,実際にCNTなどのナノ粒子を用いて評価を行なった。
この実験システムは生きたラットからリンパ管を取り出し,摘出したリンパ管を生体内と近い状況下で制御することで,リンパ管組織が生きたまま内部を流れるナノ粒子の影響を評価することができる。具体的には,摘出したリンパ管内にナノ粒子を流してハイスピードカメラで撮影することで,リンパ管内を流れる粒子の様子とその流れ方を評価する。
この方法は動物の生体内実験と比較して,ナノ粒子の動きとそれに対するリンパ管の反応をより高解像度で詳細に調べることができ,また単一のリンパ管のナノ粒子に対する生理的反応を定量的に計測し,かつ組織学的にも評価することができるという。
またナノ粒子を流したあとのリンパ管組織を観察することで,CNTなどのカーボンナノ粒子と比較して,銀ナノ粒子ではリンパ管の内皮細胞と平滑筋細胞が障害されていることがわかるなど,組織学的,電子顕微鏡的な評価が可能となった。
すなわち,この実験システムを用いて特定のナノ粒子を評価することで,そのナノ粒子のリンパ管への生理学的および組織学的な影響を解明することができ、細胞実験や動物実験などと組み合わせて生体安全性を評価することで,ナノ粒子の臨床応用をより安全に達成することができるとする。
研究グループは今後,様々なナノ粒子の濃度や時間によるリンパ管への影響を検証する。さらに細胞や動物実験と組み合わせて,ナノ粒子の臨床応用にむけた安全性を検証していくとしている。