中部大学,長浜バイオ大学,鹿児島大学らは,計算科学と分子生物学的手法を駆使し,世界で初めて白亜紀の最初のホタルの発光の再現に成功した(ニューリリース)。
ホタルの仲間(ホタル科)は,世界に約2000種が知られており,その発光の色も緑色から黄緑色,黄色,オレンジ色と,種によって異なる。ホタル科の昆虫は,約1億年前ころに地球上に現れ,そのときにはすでに発光する能力を持っていたと考えられているが,当時どのような発光色で発光していたのかはわからなかった。
研究グループは,「祖先配列復元」という推論的解析に基づいて過去の遺伝子を復元する手法に着目した。進化生物学では以前から使われている方法で,これまでにも古代のヘモグロビンやホルモン受容体などのタンパク質が復元されている。しかし,これまでの祖先配列復元では,直接目で見えるような現象が復元されたことはなかった。
ホタルの発光は,「ホタルルシフェラーゼ」という発光酵素による「ホタルルシフェリン」という化学物質の酸化反応による。このとき,ホタルルシフェリンはホタルの種すべてに共通の物質なので,発光の色はルシフェラーゼのアミノ酸配列の違いによって決まることがわかっていた。
また,ホタルルシフェラーゼは,バイオテクノロジーや基礎医学で有用なツールとして使われている。そのため,これまでにいろいろな種のホタルのルシフェラーゼ遺伝子が調べられており,正確な祖先配列復元に用いるための遺伝子情報量がとりわけ整っていた。
復元されたホタルの最初の祖先が持っていたルシフェラーゼ配列を復元し,配列情報に基づきルシフェラーゼタンパク質を作製した。これにホタルルシフェリンを加えたところ,深い緑色の強い発光が観測された。さらに,最初のホタルが出現するより以前の配列を復元したところ,発光は非常に弱く,発光色は赤色だった。また,最初のホタルが出現した以降の様々な時代のホタルルシフェラーゼを復元したところ,深い緑から黄色まではば広い発光色が確認された。
すなわち,「ホタルの仲間は,弱く赤い光を持った祖先の昆虫から進化し,最初に現れたホタルは深い緑色に光っていた。その後,進化の過程で種が分かれて行く中で少しずつ発光色の異なるホタルが現れてきた」という一連の進化のシナリオが明らかになった。さらに,復元されたルシフェラーゼのX線結晶解析を行なったところ,古代のルシフェラーゼがどのような構造的メカニズムで緑色に光っていたのかも明らかになった。
研究グループは,今回の研究が「古代のワンシーンを蘇らせることを実験的に可能であることを示した」点に意義があるとしている。