東京医科歯科大学は,紫外光照射で接着力が低下する歯科用接着剤を開発した(ニュースリリース)。
歯科用接着剤は治療用器具を短期間接着する矯正治療,暫間固定,仮着などの歯科治療にも用いられているが,強固に固定された治療具を歯質表面から脱着するためには力学的に剥離,脱着する以外の選択肢はなく,歯質再表面のエナメル質も同時に損傷することが報告されている。
研究グループは,環状糖類シクロデキストリンの空洞部に高分子鎖が貫通した構造の超分子ポリロタキサンに,紫外光照射で分解する設計と接着剤成分を化学的に架橋する設計を施すことで,既存の接着剤に紫外光照射で分解機能を賦与することを検討した。
ポリロタキサンを介して架橋された接着剤成分は,ポリロタキサンの分解に伴い架橋構造が崩壊するため接着強度が低下すると考えられるという。また,ポリロタキサンはネックレス状の特徴的な化学構造であり,光分解性結合(o-ニトロベンジルエステル)を軸高分子内に一か所導入するだけで光分解機能を賦与することができる。このため,光分解性結合の導入数を減少させることができ効率的に接着強度が低下すると期待された。
光分解性結合として,軸高分子中央にo-ニトロベンジルエステルを有するポリロタキサンを新たに合成し,紫外光照射に対する分解特性を評価した。その結果,紫外光照射30秒後よりポリロタキサンの分解が確認され,2分間の照射で約60%のポリロタキサンが分解したという。
次に,既存の歯科用接着剤にポリロタキサンを溶解させ,プラスチック片(ポリメチルメタクリレート)同士の接着を行なった。接着剤中のポリロタキサン含量が10wt%のとき,接着強度は既存の歯科用接着剤と変化はなかったが,紫外光を2分間照射することによってポリロタキサンの分解が生じたことで約50%まで接着強度が低下した。
そこで,牛歯象牙質に対するプラスチック片の接着と光照射による接着強度の変化を引張試験により検討した。接着剤中のポリロタキサン含量が増加するにつれて接着強度が低下したが,実用には影響のない最低限の接着力(20MPa程度)は維持していた。一方、紫外光を2分間照射した結果,象牙質とプラスチック片間の接着強度が約60%低下することを見出したという。
接着強度の改善や照射する紫外光の波長など改良が必要な課題もあるものの,光で脆化する接着剤を用いることで,歯質表面へ固定した歯科材料の容易な脱着や,脱着に伴う歯質の損傷の軽減が期待できるとしている。