東京工業大学と日本化薬は,2種類の有機分子を組み合わせることにより,可視光を波長320~340nmの紫外光に変換する溶液系を開発した(ニュースリリース)。
光を短波長化する「光アップコンバージョン(UC)」は,この操作により光子のエネルギーが上昇する。今世紀初頭から,2種類の有機分子を組み合わせて行なうUC技術が研究され始めたが,その大半は可視域におけるものだった。
その後,可視光を紫外光に変換するUCの研究も報告されたが,非常に少ない例を除き,それらは「波長340nm以上」へのUCの研究であり,より光子のエネルギーが高く用途が広がる「波長340nm以下へのUC」はほとんど研究されてこなかった。
研究グループは2014年に世界に先駆けて「可視光から波長340 nm以下へUC」を行なう技術を発明した。しかし,そこには光照射に伴う比較的速い試料劣化(光劣化)が伴っており,その原因や対処法も不明だった。
別の問題として,これまでUCの研究分野では試料の光劣化のデータは示されてこず,議論も行なわれてこなかった。この技術を有用なものとするためには,この問題点を検証し,その支配メカニズムを解明したうえで,光劣化を抑制する指針を見いだすことが必要となっていた。
今回の研究では,様々な溶媒と,そこに溶かすUC機能を与える溶質分子とを変えて探索した結果,ある2種類の有機分子(アクリドン誘導体とナフタレン誘導体)を組み合わせることで,比較的高い効率(約10%)と安定性を備えた,可視光を波長340nm以下の紫外光に変換する溶液系を開発した。
加えて,その溶液系を用いて,UC効率と光劣化耐性が溶媒の種類に強く依存することの支配メカニズムを解明した。これにより,この技術の応用実現に向けて重要な鍵となる「どのように①UC効率を高め,②光劣化を抑制するのか」という従来の未解明点について,一般性の高い指針を得ることに成功した。
具体的に,様々な溶媒を使用して系統的な研究を行なった結果,①については,光劣化耐性は「用いる溶媒と溶質のフロンティア軌道エネルギーの差」に支配されるという,一般性の高いメカニズムを明らかにした。 ②については,溶媒の極性が,UC機能を担う溶質のエネルギー状態に影響し,それが「分子間のエネルギー移動のしやすさ」に影響するという,UC効率の支配メカニズムを明らかにした。
研究グループは,一連の試料開発と効率および光劣化耐性を支配する各メカニズムの解明について,この技術の応用実現に向けて大きな前進を与えるものだとしている。