京都大学,呉高専,筑波大学,東京大学,英ダラム大学は,超巨大ブラックホールから吹く「風」の謎を解明した(ニュースリリース)。
宇宙には数多くの銀河があり,その中心には超巨大ブラックホールが存在する。ブラックホールは周りにあるガスを次々に吸い込んでいくが,なかにはブラックホールに吸い込まれずに,外に向かって高速で吹き出すガスも存在する。
強い重力源であるはずのブラックホールから重力に逆らって吹き出す「風」の存在はこれまでのX線観測から知られていたが,どうやって吹いているのかについては,主なモデルとして,降着円盤からの光の力を使って加速するという説と,降着円盤の磁場の力を使って加速するという説が提唱されていたが,これらが観測をどこまでよく再現できるかわかっていなかった。
今回,研究グループは,降着円盤からの光の力,とくに紫外線の力を使ってガスが加速されることで「風」になる,という理論モデルに基づいてX線の擬似観測を行ない,その結果を実際の観測結果と比較した。その結果,観測される「風」のさまざまな特徴を同時にかつ定量的に再現することに世界で初めて成功した。
今回の研究に用いた理論モデルによる「風」は,強い紫外線の光が降着円盤から放射されているが,その光がガスを外側に押していくことで「風」が作られている。今回の研究では,このモデルをもとに,中心にあるブラックホールの周りからX線が放射される時にX線と「風」がぶつかることでどのようなスペクトルが作られるかについて,コンピュータシミュレーションを用いて計算した。
すなわち,こうした紫外線で押された「風」が本当に存在したとして,それをX線で観測した際にどのように見えるかという擬似観測を行なった。その結果,吸収線の深さまでは完全に再現できなかったが,2本の吸収線がそれぞれ観測と合致した位置に出てくることがわかった。また,「風」に当たって散乱されたX線によって輝線が作られることも再現できた。
これまでも理論モデルから観測を再現しようと言う試みはなされてきたが,「風」の速度が遅すぎるなどの問題があった。今回,理論モデルの進展や擬似観測の方法の改良などによって,「風」の様々な観測的特徴を初めて定量的に再現することに成功したという。
今回の研究結果を用いて,2022年度に日本が打ち上げる予定のXRISM衛星で模擬観測を行なったところ,ひとつひとつの細かな構造を分離して観測することが可能とわかった。今後,実際にこのようなスペクトルが取得されることで,ブラックホールの「風」の素性がより明らかになってくるとしている。