京大,網膜の新たな光応答を顕微鏡観察で発見

京都大学は,網膜内の酵素の働きを観察する顕微鏡法を開発して,cAMP依存性キナーゼ(PKA)と呼ばれる酵素が光オフ,すなわち暗黒をきっかけにして網膜内での働きを強めることを世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

研究グループが作製した遺伝子改変マウスPKAchuは,cAMP依存性キナーゼ(またはプロテインキナーゼA,PKA)と呼ばれる体の中で幅広い機能を持つ酵素の働きを顕微鏡で観察することを可能にした。

PKAchuはこれまでに脳の神経細胞や,血液中の細胞の一種である好中球の研究に活用されてきたが,研究グループは今回初めて網膜を対象とする研究を行なった。

PKAchuの網膜を蛍光顕微鏡で観察することで,一つ一つの網膜細胞が持つPKAの働きを色に変換して見られるようになった。また,PKA活性の観察をしながら網膜に強い光を6秒だけ当てる実験を試したところ,光が当たったところでだけPKAの働きが約 15分間強くなることを発見した。

そこで次に,10分間に渡って強い光を当てる実験を行なったところ,予想外にも光オンではなく,光オフ,つまり暗黒がPKAの働きを強めていることが分かった。さらに,厚みが約200μmであるPKAchu網膜の表面から裏面までを同時観察したところ,暗黒でPKAの働きが強くなるのは桿体視細胞と呼ばれる,暗所視力を担当する光センサー細胞だけであることが判明した。

我々の眼は明るいところから暗いところに移動した際,30分以上かけてゆっくりと暗闇に慣れる機能,暗順応の仕組みを持っているが,今回発見した暗黒をきっかけに起こる桿体PKA活性化が,これまでに知られていなかった暗順応を補助する仕組みではないかとしている。

酵素であるPKAは,細胞の中で環状AMPと呼ばれる物質を検出すると働く。網膜の環状AMP量が光で変化することは知られていたが,技術的な問題から,この現象を詳細に調べた研究はほとんどなく,なぜ環状AMP量が光で変化するのかという疑問に対する明確な答えはまだ出ていない。

研究グループは今回,PKAの働きを一つ一つの網膜細胞で分析することが可能になったので,この疑問に答えを出したいとしている。また,網膜は,光情報を検出して脳に伝達するという特別な役割を持つことから,PKA以外にも光と闇にまつわる特別な機能を有すると考えられることから,今後も網膜内の知られざる分子の働きを,顕微鏡などを使った観察で発見していきたいとしている。

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