東北大学は,室温において励起子が安定して存在できる酸化亜鉛(ZnO)単結晶を活性層とするチップサイズの微小共振器を作製し,共振器ポラリトンを室温で観測することに成功した(ニュースリリース)。
ポラリトンレーザーは半導体レーザーとは動作原理が異なる超低閾値コヒーレント光源であり,省電力化を達成できる可能性がある。その動作原理は,共振器ポラリトンをボーズ・アインシュタイン凝縮させることに基づいており,発振にキャリアの反転分布を必要としない。
研究グループは,室温動作が可能なポラリトンレーザを実現するために,チップサイズのZnO微小共振器の実現に向け,励起子が比較的長い時間存在できる高品質なZnO単結晶を光の波長程度の厚さまで薄くし,それを近紫外線の反射特性に優れる誘電体DBRにより挟みこむトップダウン方式プロセスを開発した。活性層は,励起子の寿命を悪化させる非輻射再結合中心(貫通転位,空孔型欠陥,不純物等)の濃度が低い水熱合成ZnO単結晶基板を研磨薄膜化することにより作製した。
DBRは,紫外線波長域で吸収損失が少ないシリカ(SiO2)とジルコニア(ZrO2)の組み合わせを採用し,同グループ独自の製膜手法である,反応性ヘリコン波 励起プラズマスパッタ法(R-HWPS法)により作製した。その結果,ZnO活性層への欠陥誘起を抑えるとともに,平滑な界面を有する薄膜周期構造を実現でき,高い反射率と広い反射帯域を有するDBRを堆積できた。
作製したZnO微小共振器中に,室温において共振器ポラリトンが形成されているかを調べるため,角度分解フォトルミネッセンス法(励起スポット径80µm,弱励起条件)により発光エネルギーの観測角度依存性を調べた。
励起子ポラリトンが微小共振器モードに結合し共振器ポラリトンが形成された場合,発光エネルギーは角度依存性を呈する。計測の結果,ZnO微小共振器の発光エネルギーは角度依存性を示し,そのエネルギー分散は計算により求められた共振器ポラリトンの下枝のエネルギー分散とよく一致した。
共振器ポラリトンが,励起直径80µmという比較的広い領域において観測されたこと,さらに微小共振器の面内(10×5mm2)の至る場所で観測されたことは世界初の成果であり,ZnOを活性層としたポラリトンレーザ実現に向けた大きな前進となった。
研究グループは,ポラリトンレーザ発振に向けて,室温における共振器ポラリトンのボーズ・アインシュタイン凝縮の実証を目指す。また,活性層をpn接合内に形成し,電流注入駆動を目指すとしている。