早稲田大学とインドInter-University Centre for Astronomy and Astrophysicsは,インドの天文衛星を用いて90億光年彼方にある銀河から強い紫外線の検出に成功した(ニューリリース)。
ビッグバン後40万年程度から2~3億年程度まで,恒星も銀河も無い「暗黒時代」の宇宙の物質(主に水素)は電気的に中性だった。その後,宇宙最初の天体が誕生し,銀河が形成されると,たくさんの紫外線が放射され,銀河間に漂う水素は電離されていった。これを「宇宙再電離」と呼ぶ。
ビッグバンから暗黒時代の前までの水素は電離状態であり,中性の暗黒時代を経て,再び電離状態になった。そして今日まで,銀河間の水素は電離状態であり続けている。この宇宙再電離が起きたきっかけが天文学の課題となっている。
これまで水素を電離できるほど強い紫外線(波長91.2nm未満の光,電離光子)を放つ銀河が探されてきたが,宇宙再電離の時代であるおよそ130億年前の電離光子銀河はまだ見つかっていない。これは,宇宙再電離後の銀河間空間に残るわずかな中性の水素が,地球に届く前に電離光子を吸収しつくすため。
110億年前の宇宙では銀河間の中性水素が少ない上,この時代の電離光子は,地上の望遠鏡で観測できる可視光まで赤方偏移するが,それでも10個程度の電離光子銀河しか報告されていない。さらに時代が進むと今度は赤方偏移が小さく,電離光子は紫外線のまま大気に吸収されてしまう。
そこで大気圏外のハッブル宇宙望遠鏡を使っても,検出した電子光子はおよそ40億光年未満の銀河10個程度。その結果,40億光年から110億光年の間にある電離光子銀河はまったく発見されていなかった。
研究グループは,インドの天文衛星AstroSatの紫外線望遠鏡(UVIT)を用いて電離光子銀河を探査した。そして,90億光年彼方の銀河から電離光子の検出に成功した。この電離光子の波長は赤方偏移を戻すと64nmであり,非常に高いエネルギーを持つ紫外線だった。これほど高エネルギーの紫外線を銀河から検出したのは初めてで,銀河の電離光子スペクトルに関して新しい観測的情報を得ることができた。
これまで観測されていなかった銀河の遠紫外線スペクトルの情報が得られたことは重要であり,銀河が生み出す電離光子の量やそれが銀河間空間にどのように伝わるのかという情報は,宇宙再電離の解明への一つのカギとなる。また,UVITのように小さくても性能を特化すれば,ハッブル宇宙望遠鏡をもしのぐ性能を発揮できることが実証されたのも大きな成果だとしている。