CERN,ヒッグス粒子のミュー粒子対崩壊の兆候発見

欧州合同原子核研究機構(CERN)は,大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行われた実験において,ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊する反応の兆候を発見したと発表した(ニュースリリース)。

日本からは高エネルギー加速器研究機構(KEK),東京大学,名古屋大学などからなるATLAS日本グループがLHCのATLAS測定器で実験を行なうATLAS実験に参加している。

2012年に,CERNで推進されているATLAS実験,CMS実験によって,ヒッグス粒子が発見された。素粒子がヒッグス場との相互作用によって質量を獲得すると考えるヒッグス機構の実証を行なうためには,ヒッグス粒子の生成や崩壊の反応を精査する必要がある。

物質を形作る素粒子(物質粒子)は6種類のクォークと6種類のレプトンから構成されるが,それらは質量の大きさに基づいた「世代」によって分類される。これまでの研究で,第3世代の素粒子であるトップクォーク,ボトムクォーク,およびタウ粒子とヒッグス粒子との反応は観測されていた。

ATLAS実験では,2015年から2018年に,世界最高エネルギー(13テラ電子ボルト)の陽子衝突実験を行ない,その時に取得した全てのデータを用いて,ヒッグス粒子がミュー粒子対に崩壊する反応の兆候を2σの統計的精度で発見した。また,今回,同じくLHCの検出器であるCMS実験では3σの確度で観測した。

この反応が起こる確率は,現在の統計量ではヒッグス機構の予想と一致している。ミュー粒子は第2世代の素粒子で,この研究は,第2世代の物質粒子の質量の起源もヒッグス機構にあること,さらには,素粒子の世代もヒッグス機構に起因することを示唆するものだという。

これまでに蓄積した全データを用いた測定において,ヒッグス機構の予想と一致する結果が得られているが,その確度はまだ十分ではない。素粒子の研究では,一般的に統計的精度が5σを超えると「発見」と主張できる。

ATLAS実験とCMS実験は,これから取得予定のさらに高統計のデータを用いることで,ヒッグス粒子のミュー粒子対崩壊を発見したと主張できる5σ以上のレベルまで確度を向上できると,研究グループは考えているという。その時の結果から,ヒッグス機構の予想値と観測値のズレを見ることで,未発見の新しい物理による影響が明らかになるかもしれないとしている。

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