東京医科歯科大学,東京慈恵会医科大学,明海大学は,Er:YAGレーザー照射が骨形成抑制因子であるスクレロスチンを抑制することを証明した(ニュースリリース)。
Er:YAGレーザーは,水への吸収が強く,発熱が少ないので,硬組織・軟組織の切削に優れている。歯科治療においても虫歯治療や歯周治療,インプラント治療に用いられ,治療の有効性についても報告されている。
骨細胞から分泌されるスクレロスチン(遺伝子名:Sost)は古典的Wntシグナル伝達経路の細胞外抑制因子として知られており,スクレロスチンを阻害することで,骨形成,骨量および骨強度の増加をもたらす。スクレロスチンを阻害するタンパク質の抗スクレロスチン抗体は,骨粗鬆症治療薬へも応用され注目されている。
研究グループは,レーザー照射による骨切削は従来の機械的切削と比較して新生骨形成に優れていることを報告してきたが,そのメカニズムは不明だった。そこで研究グループは,骨切削後の遺伝子変化について評価するため,ラットの頭頂骨に対してレーザー照射による骨切削とスチールバーを用いた機械的骨切削を行なった。
処置後6,24,72時間で切削骨を採取し,DNAマイクロアレー法を用いて遺伝子発現の網羅的かつ経時的な解析を行なった結果,6時間後のレーザー切削骨とバー切削骨において発現変動遺伝子を10個検出した。その中でレーザー切削骨ではSostの発現が減少していることを検証した。
また,免疫組織化学染色においてもバー切削骨よりもレーザー照射骨でスクレロスチンの発現が低いことを観察した。切削後24時間では,レーザー切削と比較してバー切削において炎症関連の遺伝子群が上昇することを確認した。
次に,骨細胞様細胞に対してEr:YAGレーザー照射を行なった結果,照射6時間後ではレーザー照射群においてSostの抑制効果が示された。照射24時間後の細胞培養上清からもスクレロスチンの発現が減少していることを見出した。
今回,レーザー照射による骨切削はバー切削よりも炎症が生じにくいことを証明した。またレーザー照射によりスクレロスチンが減少することも見出し,Er:YAGレーザー照射は新生骨形成に有利な反応を引き起こす可能性が示唆された。今後,骨疾患へのレーザー治療の応用が期待されるとしている。