東芝,東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo),東北大学病院は,ゲノム医療の一つであるクリニカルシークエンス向けに量子暗号通信技術を適用したシステムを構築した(ニュースリリース)。
クリニカルシークエンスでは,個人の特徴と密接に結びつく情報であるゲノム解析情報データ,および,患者の遺伝情報や診断結果など秘匿性の高い情報を扱う医師等の専門家によるオンライン会議の情報の双方に高度なセキュリティが求められる。
今回3者は検討結果を踏まえて,次の2つを量子暗号通信技術によって暗号化する実証に取り組んだ。
(1)ゲノム解析情報データ(エクソームシークエンスデータ)のリアルタイム伝送
(2)専門家のオンライン会議の会議データ(参照する解析結果データおよび会議データ音声映像データ)の伝送
(1)については東芝とToMMoが,2020年1月に公表したゲノム解析情報データのリアルタイム伝送システムを利用した。具体的には,量子暗号装置が出力する暗号鍵を用い,暗号技術ワンタイムパッド方式によってゲノム解析情報データを逐次暗号化して伝送した。このシステムは,操作画面上のメニューから解析が必要な検体の番号や伝送方法等を選択するだけで簡単にゲノム解析情報データを伝送することが可能だという。
(2)については,専門家のオンライン会議向けに,ゲノム解析結果の情報を参照しながら映像と音声の双方向のやりとりができるオンライン会議システムを構築して,量子暗号によって生成される暗号鍵を蓄積・管理する鍵管理サーバと連携させることで実現した。
同一拠点のオンライン会議システムからデータを鍵管理サーバが受信すると,ワンタイムパッド方式でデータを暗号化して他拠点の鍵管理サーバへ送信する機能を開発した。さらに,鍵管理サーバには,他拠点の鍵管理サーバから暗号化されたデータを受信すると,蓄積した暗号鍵を用いてワンタイムパッド方式で復号化し,同一拠点のオンライン会議システムに送信する機能もある。
これらのシステムを用い,(1)東北大学病院が保有する96検体分のゲノム解析情報データ(エクソームシークエンスデータ)のリアルタイム伝送,ならびに,(2)医師および医療専門家が参加する延べ65分間の模擬オンライン会議,の評価・検証を行なった。
その結果,ゲノム解析データのような大規模データの伝送にも,会議データのような応答性の要求されるデータの伝送にも,量子暗号通信技術が適用できることを確認した。映像のリアルタイムな伝送は,今後の遠隔医療等に適用することも期待できるとしている。