理研ら,VRと二光子顕微鏡で脳内地図を観察

著者: sugi

理化学研究所(理研),京都大学,埼玉大学,韓国延世大学,スペインカ ハール研究所,独マックス・プランク研究所らは,空間学習に伴う脳内地図の形成メカニズムと自閉スペクトラム症の関連遺伝子Shank2の機能を解明した(ニュースリリース)。

哺乳類の海馬には,ある特定の場所を通るときにだけ活動する「場所細胞」が存在する。そして,「いつ,どこで,何が起こったか」といった出来事の記憶を海馬に貯蔵するためには,場所の情報だけではなく,そこにどんな特徴が存在したかなどの情報を,多数の場所細胞によって構成される「認知地図」上に記録する必要がある。

動物が新しい環境を探索すると,新しい場所細胞が海馬で直ちに形成される。しかし,海馬の認知地図がどのように形成され,精緻化するのかはよく分かっていなかった。また,自閉スペクトラム症など自分を取り巻く環境の知覚や認知に特有の傾向を示す脳疾患において,海馬の認知地図にどのような変化が起こっているのかについても理解が進んでいなかった。

研究グループは2017年,マウスのバーチャル(VR)空間の認識には海馬の活動が必要なこと,およびその目的地の学習にはShank2遺伝子が必要であることを明らかにした。今回,このときグループが開発したマウス用VRシステムに二光子レーザー顕微鏡を組み合わせ,海馬のCA1野と呼ばれる領域に,空間学習に伴って認知地図が形成される過程を観察した。

細胞の活動を画像化するために,高反応性蛍光カルシウムセンサータンパク質を海馬に発現する遺伝子改変マウスを作製した。このタンパク質は,オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)を改変したもので,神経細胞の活動によって細胞内で増加するカルシウムイオンに結合すると,強い緑色の蛍光を発して細胞を「光らせ」る。

この遺伝子改変マウスにより,海馬CA1野の約0.5mm四方に存在する数百個の神経細胞の活動を二光子レーザー顕微鏡で均一に観察することが可能になった。

研究グループは,VR空間に長い廊下のような直線路を設定し,ランドマークとして緑色のゲートと報酬として水が得られる報酬地点を設定し,マウスにこの直線路を走らせて解析した。

その結果,空間学習に伴う脳内地図の形成メカニズムと自閉スペクトラム症の関連遺伝子Shank2の機能を解明した。研究グループは,二光子レーザー顕微鏡を用いた脳活動の画像化は,生きた脳の働きを高解像度で「見て」理解できる極めて強力な研究手法だとしている。

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