東芝は,自動運転に期待される距離センシング技術「LiDAR」において,「ソリッドステート式LiDAR」向けに,長距離測定と高解像度を実現する受光技術を開発した(ニュースリリース)。
従来のLiDARは,レーザーと光の検出器を回転させて全方位を観測する機械式が主流だった。機械式LiDARは駆動部にモーターを使用した回転機構を持つため,小型化・軽量化・低コスト化が難しいという課題がある。そのため,モーター等の機械部品を使用しないソリッドステート式LiDARの開発が求められている。
ソリッドステート式は,回転機構を持たないため,全方位ではなくレーザーの照射角の範囲でのみセンシングが可能で検知領域は小さくなるが,小型・軽量で壊れにくく,設置場所の自由度を広げられるといった利点がある。また,回転機構を持たないことによりコストを下げることも可能。しかし,ソリッドステート式は長距離性能と解像度がトレードオフの関係にあり,この両立が課題だった。
そこで同社は,ソリッドステート式LiDAR向けに新たな受光技術を開発した。従来困難だった超高感度受光デバイスSiPMの小型化を可能にし,高解像度と長距離測定性能の両立を実現した。SiPMは,微かなレーザーの反射光を高感度に検出することが可能で,LiDARの長距離測定に適している。
しかし,従来のSiPMでは,一度光を検出した受光セルは一定時間応答ができなくなるといった物理上の特性があり,漏れなく光を検出するためには非常に多数のセルを搭載することが必要だった。
そこで今回,同社はSiPM上に受光セルを再起動させるトランジスタを搭載することで,受光セルが応答できない時間を短縮することに成功した。これにより,少ないセル数でも効率よく光を検出できるようになり,SiPMの大幅な小型化を実現した。小型SiPMを用いることで,限られたパッケージ面積内に多数のSiPMを配列することができ,高解像度化を図った。
この技術で,市販のレンズを用いたシステム構成(画角7°×7°)において,高解像度を保ったまま,ソリッドステート式において従来比4倍となる200mの長距離測定性能を達成した。
この受光技術は,市販のレンズと組み合わせて使用することができるので,利用用途によって生じる複雑なカスタマイズが不要となる。乗用車,バス,作業車など,多様な車種への搭載が容易となり,今後,ドローンやロボットへの搭載も期待できるとしている。