古河電工ら,量子暗号通信の委託事業に採択

古河電気工業が参画するプロジェクトが,総務省の委託事業である「令和2年度情報通信技術の研究開発に係る提案の公募-グローバル量子暗号通信網構築のための研究開発-」に採択された(ニュースリリース)。

このプロジェクトは大学や研究機関等を含む12者で構成されており,今後5年間にわたり研究が進められる。なお,今年度の総務省における実施予定額は14.4億円となっている。

欧米や中国でも量子に関する研究開発を積極的に進めており,日本では今年1月に内閣府が「量子技術イノベーション戦略」を策定し省庁横断・政府一体で量子技術のイノベーションを推進している。この戦略の重点領域として,量子通信,量子暗号,光通信チャネルとの並存技術等に関する総合的かつ戦略的取組を強力に推進する,とされている。

今回の提案は,世界トップクラスの量子暗号通信技術をもつ企業・大学・研究機関が連携して,グローバル規模で量子暗号通信が可能なネットワークの実現に向けた研究開発を実施するもの。

(1)量子通信・暗号リンク技術,(2)トラステッドノード技術,(3)量子中継技術,および(4)広域ネットワーク構築・運用技術,の4つの技術課題があり,同社は(3)量子中継技術を横浜国立大学などと共同で担当する。

量子暗号通信ネットワークでは,量子の性質により信号を増幅すると量子状態が変わってしまうため,中継器として従来の光増幅器が使えず,安全に直接伝送できる距離は50km程度にとどまっていた。

伝送距離を伸ばすためには,量子情報を壊さずに再送信できる量子暗号中継器が必要とされている。同社は,この提案内で,2点間の通信距離を延ばす量子暗号中継方式と,短距離で多ユーザを同時接続する量子暗号中継方式の2方式の量子暗号中継技術を開発する。

2点間の通信距離を延ばす量子暗号中継方式では,この方式で必須な,光通信帯の信号光を量子メモリが動作する波長へ変換する波長変換技術や波長多重中継技術の開発を担当する。横浜国立大学が中心となって開発する量子メモリを利用することで,量子情報を壊さずに再送信できる量子暗号中継器の実現を目指す。

一方,短距離で多ユーザを同時接続する量子暗号中継方式として,量子もつれ光を利用した波長多重量子暗号中継技術を開発する。同社は,2017年から東北大学と共同で光ファイバーを用いた量子もつれ光発生技術を開発しており,今回採択されたプロジェクトの中でこの技術を利用した波長多重量子暗号中継システムを検討し,2024年度の実証を目指すという。

どちらの開発も,いままで培ってきた光通信技術(特に光ファイバー,光部品,サブシステム)を活用するもので,新しい量子中継技術の開発に貢献するとしている。

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