東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)らが参加する,米国・ヨーロッパ・日本を中心とした国際共同実験グループ「XENONコラボレーション」は,暗黒物質直接探索実験において得られた観測データに,新たな素粒子が関与した可能性のある,これまで予想していなかった過剰な事象が見つかったと発表した(ニュースリリース)。
暗黒物質の直接検出を目的としたXENON1T実験は,イタリアのグランサッソ国立研究所の地下研究所において2016年~2018年まで実施された。検出器は約-100℃の低温に冷却した超高純度な液体キセノンを3.2トン使用し,そのうち2.0トンが暗黒物質の標的として用いられた。
暗黒物質や身の回りの放射線などが液体キセノンと相互作用をすると,キセノン原子から非常に僅かな光信号や電子信号が発生する。その光信号や電子信号を光電子増倍管(PMT)で捉え,暗黒物質の検出を行なう。
この実験は,暗黒物質の有力な候補であるWeakly Interacting Massive Particle(WIMP)と通常の物質の相互作用の頻度に関して世界で最も厳しい制限を与えている。また,WIMPのみならず多くの新しい物理現象の探索も可能で,ニュートリノを伴わない2重ベータ崩壊の探索も行なうことができるほか,核崩壊の観測結果を発表するなど成果をあげている。
暗黒物質と液体キセノンの衝突頻度は非常に稀で,観測される殆どの事象は検出器中に含まれている放射性物質に由来する。そのため,実験の解析においては背景事象の排除が必要となる。今回,それでもなお,予想されていた232個の背景事象を53個も上回る有意な超過事象が観測された。
この過剰な事象の可能性として,①これまで考えられていなかった背景事象,②新しい素粒子の可能性,③ニュートリノの新たな性質,が考えられるという。
このうち観測された超過分のエネルギースペクトルは,太陽で生成されたアクシオンから予想されるエネルギースペクトルに非常に良く似ているという。アクシオンとは,強い相互作用のCP対称性を保存するために提案された未知の素粒子であり,太陽中で絶えず生成されている可能性がある。
統計的には,観測された超過が統計的なゆらぎによるものである可能性が約2/10,000の確率であり,太陽アクシオンが存在すると結論づけるには十分ではない。研究グループは,次期計画であるXENONnT実験に向けて検出器をアップグレードしており,今回の事象超過の原因解明が期待できるとしている。