東北大学,ニュージーランド ヴィクトリア大学ウェリントンの研究グループは,新たな情報担体として期待されている半導体のスピン波が,従来よりも長時間持続できる結晶方向を発見した(ニュースリリース)。
半導体トンラジスタの省電力化や高速化は素子の微細化によってなされてきたが,近年では微細加工のみによる性能向上は限界に達している。このような状況を打破するために,電子のもつ微小な磁石の性質であるスピンの回転制御を利用した超省電力トランジスタ素子(スピントランジスタ)が提案されている。
スピンの回転制御手法の一つとして,スピン波が有用であることが知られているが,結晶内部に生じる磁場によってスピン波が時間とともに崩されてしまうことが長年問題となっていた。スピン波の持続時間が長いほど,より効率的な情報処理や長距離情報輸送が可能になるため,スピン波の長寿命化は半導体スピントロニクスや量子情報処理において必要不可欠となる。
この研究では,ヒ化ガリウム(GaAs)をはじめとした半導体を20nmほどの薄さにすることで,電子の運動方向を3次元から2次元へ制限した構造を考え,ここで発現するスピン波の持続時間を調査した。
スピンは磁石であるので,余計な磁場に対して高感度に反応し,向きが予期せぬ方向へ動いてしまう。そのため,スピン波は,結晶内に存在する微小な磁場である,高次ドレッセルハウス磁場の強さによって持続時間が決定されてしまう。この影響の排除は難しく,微小な磁場を弱める手法さえ確立されてこなかった。
この研究では,高次ドレッセルハウス磁場の強さが,2次元に閉じ込める際の結晶方向に依存することに着目し,結晶方向を自在に制御することで,スピン波に対する高次ドレッセルハウス磁場の影響を飛躍的に抑制することに成功した。
スピン波の時間変化をシミュレーションすると,時間とともにスピン下向きを表す青色部分とスピン上向きを示す赤色部分が薄くなり,高次ドレッセルハウス磁場によってスピン波が崩れていることを示唆した。
スピン波の持続時間は長いほうが望ましいとされており,このスピン波持続時間の結晶方向依存性を計算した結果,これまで全く研究されてこなかった[225]結晶方向において,スピン波が最も安定化することが明らかとなり,保持時間が30%長くなることを突き止めた。
この結果は,半導体におけるスピン波活用に向けて重要なマイルストーンとなり,IoTや量子情報処理で利用されるスピントロニクスデバイスの革新的省電力技術になるとしている。