KEKら,金属リチウムをミュオンで検知

高エネルギー加速器研究機構(KEK),豊田中央研究所,J-PARCセンター,大阪大学,国際基督教大学,総合科学研究機構の研究グループは,リチウムイオン電池に用いられる黒鉛負極に析出した金属リチウムの検出に成功した(ニュースリリース)。

リチウムイオン電池の再利用に,内部を非破壊で把握することが求められている。これは,電池の使用条件によってはイオンで存在するはずのリチウムが還元されて金属として析出し,それが,電極間の短絡・電解液との熱反応・容量低下につながるため。

しかし,リチウムのような軽元素にX線を照射した際に検出される蛍光X線はエネルギーが低く,容器を透過させて検出することが不可能だった。一方,ミュオン特性X線のエネルギーは蛍光X線のエネルギーより約200倍も高く,市販のアルミラミネートシートを使ったリチウムイオン電池の筐体を,ほぼ減衰することなく通過する。

研究グループは,J-PARC MLF MUSE Dラインを,世界で唯一,リチウムイオン電池のミュオン特性X線元素分析が可能な実験施設とした。負ミュオンの運動量を変化させることで,数十µm厚のリチウムイオン電池電極を,容器の外側からダメ-ジなく分析することができる。これにより,リチウムイオン電池に用いられる黒鉛負極に析出した金属リチウムの非破壊検出に初めて成功した。

あらかじめ金属リチウムを析出させた黒鉛負極試料を用いることで,金属リチウムと充電された電極中のリチウムイオンとで,負ミュオンの捕獲率が異なり,両者のリチウム1原子当たりの検出感度が大きく異なることが初めて分かった。

黒鉛負極中のリチウムイオンの量は電池の充電状態からわかるので,得られるミュオン特性X線の強度のうち,金属リチウムに由来する信号強度のみを捉えられる。このようにして,電極に析出した金属リチウムを,黒鉛負極中のリチウムイオンと区別して検出できた。さらに,ミュオンの停止位置を制御することで,リチウムイオン電池の厚み方向において金属リチウム析出の位置を検知できることも示した。

実用の電池は電解液や被膜などを含むが,この研究では金属リチウムを析出させた電極を取り出し,ラミネートで包んで試料として分析を行なった。0.1mm厚以上の鉄等の金属容器に入った電池の分析は原理的に困難だが,ラミネート型の実用リチウムイオン電池では,金属リチウム析出が検出可能だとしている。

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