岡山大学,中国 福建農林大学の研究グループは,イネの葉緑体へのマグネシウム輸送を司る遺伝子を世界で初めて突き止め,光合成の活性維持に必要なマグネシウムの輸送機構を解明した(ニュースリリース)。
マグネシウム(Mg)は植物の生育に欠かせない必須元素で,マグネシウムは植物体内でさまざまな生理機能を持つが,特に光合成の活性維持に重要となる。植物体内の全マグネシウムの15-35%は光合成器官である葉緑体に局在し,光合成色素であるクロロフィル(葉緑素)の構成分だけではなく,光合成のカギ酵素であるルビスコをはじめ,多くの酵素の活性発揮に必要な補助因子でもある。
したがって,マグネシウムが欠乏すると,クロロフィルの合成ができなくなり,植物の葉はクロロシス(黄化)を示す。マグネシウム欠乏は農業現場で生産性を低下させる大きな要因となっている。しかし,長い間葉緑体へのマグネシウム輸送機構は不明だった。
今回研究グループは,イネのマグネシウム輸送体の一つであるOsMGT3の機能を詳しく解析して,葉緑体へのマグネシウム輸送を担っていることを明らかにした。OsMGT3は主に葉身で発現している。その発現はマグネシウムの欠乏によって低下し,そのタンパク質は,葉肉細胞の葉緑体の内膜に局在している。この遺伝子を破壊すると,葉緑体へのマグネシウムの輸送が低下した。
またOsMGT3の発現は日周性を示すことを突き止めた。その発現は日中が高く,夜は低いパターンを示す。これは光合成のカギ酵素であるルビスコの活性変化と一致していた。ルビスコはマグネシウムを補酵素として必要とし,その活性はマグネシウム濃度の低下とともに減少する。
OsMGT3の遺伝子破壊株では,ルビスコの活性,光合成能力が低下した。また逆にOsMGT3を人為的に過剰発現させると,ルビスコの活性,光合成能力及び植物の生育が向上した。
この研究により,植物の光合成能力の向上に新たなアプローチを提示することができた。今後ほかの作物へ応用し,作物の生産性の向上などに応用できるとしている。