順天堂大学の研究グループは,脳神経細胞内のオートファジーを可視化するモデルマウスを開発した(ニュースリリース)。
脳神経細胞において細胞の老廃物を分解するオートファジー機能の低下はパーキンソン病,アルツハイマー病,バッテン病などの神経変性疾患と深い関わりがある。これまで脳神経細胞内のオートファジーを長期間モニターできるモデルマウスについては存在しないことが課題となっていた。
オートファジーが誘導されると,細胞質を取り囲むようにオートファゴソームが形成される。オートファゴソームはリソソームと融合し,オートリソソームとなり,内包物を分解する。
研究グループが開発したPK-LC3蛍光プローブは,オートファゴソーム・オートリソソームのマーカーであるLC3に,pH感受性の緑色蛍光タンパク質変異体と赤色蛍光タンパク質を融合させたタンパク質。
光の三原色により,「緑」+「赤」は「黄色」になることから,オートファジーが誘導されると,PK-LC3はオートファゴソームに局在して黄色蛍光のドットとして検出できるようになる。リソソームと融合してオートリソソームが融合すると,オートリソソーム内が酸性になり赤色蛍光ドットのみが検出されるようになる。
この研究ではこれらの原理を応用し,PK-LC3蛍光プローブを発現する遺伝子導入マウスを作成し,脳神経細胞における,PK-LC3由来の蛍光ドットの検出を試みた。
このマウスにオートファジーを誘導すると,肝臓,腎臓,膵臓において,PK-LC3由来の蛍光ドットが増加した。脳組織内では,大脳皮質,海馬CA1領域,歯状回,小脳プルキンエ層,小脳核,脊髄,いずれの神経細胞においても,オートファジーを誘導することでPK-LC3由来の蛍光ドットが増加していた。
次に,このモデルマウスにおけるPK-LC3由来の蛍光ドットの増加がオートファゴソーム,オートリソソームの増加と相関しているか否かを確認するため,小脳の神経細胞であるプルキンエ細胞に注目し,蛍光顕微鏡および電子顕微鏡を用いた形態解析により評価した。その結果,このモデルマウスにより脳神経細胞内のオートファジー機能の評価ができることを確認した。
この研究成果により脳神経細胞のオートファジーの機能評価を個体レベルで長期間モニターすることが可能となり,神経細胞の異常タンパク質の溜まり病や老化に関わるオートファジーの機能解明および治療薬開発への応用が期待されるとしている。