量研,光温熱療法用ナノ薬剤を開発

量子科学技術研究開発機構(量研)の研究グループは,光温熱療法に用いる光温熱材としてCu2+とBPからなるナノ薬剤を開発し,このナノ薬剤を悪性黒色腫モデルマウスに投与後,近赤外レーザーの照射により,腫瘍の増殖を著しく抑えられることを明らかにした(ニュースリリース)。

がんの三大療法として手術療法,化学療法,放射線療法が知られているが,安全で患者への負担が少ない,第四の治療法候補の一つとして光温熱療法が注目を集めている。

光温熱療法では,がん細胞が正常細胞に比べて相対的に熱に弱い性質を利用し,光を当てると発熱する光温熱材を投与してがん細胞に集積させ,生体深部まで透過できる近赤外光を照射し,光温熱材から放出される熱でがん細胞を死滅させる。

この治療法の実用化のため,(1)近赤外レーザーを吸収して効率良く安定的に発熱し,(2)生体への安全性向上のため生体内で速やかに分解される光温熱材が望まれている。しかし,2つの性質を両立した光温熱材は研究途上となっている。

この研究では,生命維持活動に必須な元素であるリンと銅に着目し,BPからなるBPナノシート(BPNS)にCu2+を組み合わせ,その表面を,多くのがん細胞と強く結合できる低分子環状ペプチドで加工したナノ薬剤(BP@Cu@PEG-RGD)を開発した。

このナノ薬剤に近赤外レーザー照射したところ,優れた光発熱効果を示した。また,このナノ薬剤を悪性黒色腫モデルマウスに投与して近赤外レーザーを照射した。具体的には,腫瘍全体に近赤レーザー(808nm,1W/cm2)を2分間照射したところ,腫瘍の温度が5分以内に急速に上昇して最高56℃に達し,がん細胞の殺傷に十分な発熱が確認できた。

計4回光温熱治療の結果,未投与マウスに比べて,腫瘍の体積が10%と著しく増殖が抑えられた。一方,体重が減少することは無く,顕著な副作用は見られなかった。

さらにCu2+を放射性同位体の64Cu2+に置き替えた放射性薬剤であるBP@64Cu@PEG-RGDを投与して撮影したPET画像から,正確に腫瘍体積を測定できた。

以上の結果から,今回開発したナノ薬剤は近赤外レーザー照射により優れたがん細胞殺傷効果を発揮し,生体への安全性が高い光温熱材であることがわかった。また,放射性薬剤として用いることによりその集積を画像化でき,治療の客観的な評価にも利用できる可能性を示した。

研究グループは今後,薬剤のさらなる最適化を行ない,臨床への応用を目指していきたいとしている。

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