理研,「電子の避け合い」が生む絶縁体を実証

理化学研究所(理研)の研究グループは,「二硫化タンタル」が絶縁体になる原因が,電子同士が互いに避け合う斥力相互作用にあることを明らかにした(ニュースリリース)。

結晶中では原子が周期的に並んでいる。1周期当たり奇数個の電子を持つ物質の多くは金属だが,電子間斥力が強い場合は,電子同士が互いの運動を邪魔して立往生させる「モット絶縁体」となる。

絶縁体である二硫化タンタルは,原子配列構造の周期内に奇数個(13個)の電子を持つが,モット絶縁体なのか,それとも新たに元の2倍の周期の構造ができるために,1周期内の電子数が偶数となって絶縁化するのか,論争になっていた。

研究グループは,走査型トンネル顕微鏡法/分光法(STM/STS)を用いて,二硫化タンタルの絶縁性の起源を調べた。金属ではどんなに小さなエネルギーを与えても電子が動き出すが,絶縁体で電子を動かすためには一定以上のエネルギーを与える必要がある。

STM/STSを用いると,与えたエネルギーごとの電子の状態数を,その空間分布を含めて測定できるので,物質表面の任意の場所が金属なのか,それとも絶縁体なのかを知ることができる。

二硫化タンタルの結晶は,層に沿って簡単に劈開する。六芒星の対が積み重なっていると,対と対の間で劈開する場合(ケース1)と,対を引き裂くように劈開する場合(ケース2)の二つが考えられる。

ケース1の場合は最表面でも対が保たれるので,1周期に含まれる電子数は偶数の26個だが,ケース2の場合,最表面に単一の原子層が残るので,1周期当たりの電子数は奇数の13個になる。もし,ケース2の最表面が絶縁体であれば,それはモット絶縁体でしかあり得ないことから,電子間斥力が二硫化タンタルの絶縁性にとって重要であることの証拠になる。

STM/STSを用いれば,最表面が金属か絶縁体かを知ることは簡単だが,観測している最表面がどちらのケースの劈開でできたものなのかは簡単には分からない。そこで,劈開によって表面に現れる原子層の段差構造に着目した。結晶を劈開すると,ところどころに原子層1枚の高さを持つ段差が現れ,段々畑のような構造になる。

ケース1の場合,このような段差の上下で六芒星の並び方は全く同じだが,ケース2の場合は,六芒星の並び方の周期は同じでも,層内の六芒星の位置に段差の上下でずれが生じる。このようにしてケース1とケース2を区別して,STM/STSで最表面の電子状態を調べたところ,いずれのケースでも絶縁体であることが分かった。

この研究成果は,電子間の相互作用がもたらす高温超伝導などの創発現象の理解と探索に貢献するとしている。

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