東京大学,量子科学技術研究開発機構,宇都宮大学,産業技術総合研究所の研究グループは,近赤外域のフェムト秒レーザー光の高次高調波として極端紫外光を発生させ,その極端紫外光を回折限界にまで集光して試料に照射することによって,サブμmスケールでの微細加工を実現した(ニュースリリース)。
レーザー加工では,光の波長が短い程微細加工に適している。近赤外域のフェムト秒レーザーを希ガスなどの媒質に集光すれば高次高調波として極端紫外域の超短パルス光を発生させることができる。そのため,極端紫外域の高次高調波は微細加工のための有力な光源として注目されてきた。
しかし,極端紫外域光の集光には屈折率を利用する透過型レンズを使うことができないため反射光学素子を用いなければならない上,波長が短いために反射光学素子の面精度を極めて高くしなければ回折限界での集光を達成することが出来ないという問題があった。
研究グループは,近赤外フェムト秒レーザーパルスをアルゴンガスに集光することによって極端紫外波長域の高次高調波光(27.2–34.3nm)を発生させた。その高次高調波光を,独自に開発した高い開口数を持つ高精度な回転楕円ミラーを用いて回折限界近くの1.48μm×0.79μm(半値全幅)にまで集光し,アクリル樹脂(PMMA)薄膜および金属ナノ粒子レジスト薄膜に照射し,サブμmサイズの微細加工を実現した。
また,照射強度の関数としてPMMA薄膜および金属ナノ粒子レジスト薄膜の加工穴の深さをプロットすることによって,高次高調波の照射強度がアブレーションを引き起こすのに十分に高いことを明らかにした。
さらに,200ショット照射時に加工が実現されるための照射強度の閾値を,PMMA薄膜について0.42mJ/cm2,金属ナノ粒子レジスト薄膜について0.17mJ/cm2と求めた。
PMMA薄膜については,1ショットの照射によって加工が実現されるための照射強度の閾値が14.0mJ/cm2であることを,ショット数を変えて行った実験結果の解析によって求めた。
また,高次高調波光をPMMA薄膜に照射してできた加工痕を顕微ラマン分光法で観察し,加工に伴ってPMMA薄膜内のポリマー主鎖が切断されるという結晶構造の微視的変化が起こることを明らかにした。
この研究により,極端紫外域の高次高調波光を高精度な反射光学素子を用いて集光すれば,サブμm領域の微細加工が可能であることが明らかになった。この成果は,レーザーによる微細加工の可能性を大きく広げるものであり,今後の微細加工プロセスへの応用が期待されるとしている。