名古屋大学,国立病院機構名古屋医療センター,米 がんセンター(NCI/NIH),東北大学の研究グループは,前臨床研究として,ポドプラニンを分子標的とする悪性中皮腫に対する近赤外光線免疫療法の開発に成功した(ニュースリリース)。
悪性胸膜中皮腫は予後不良で,それに対する有効な化学療法は限られており,切除不能例に対する治療法は非常に限定的であるため,新たな薬剤や治療方法の開発が望まれている。
ポドプラニンは,悪性中皮腫に発現が報告されているタンパク質であり,病理診断においての陽性マーカーとして使用されてきた。東北大学の研究グループは,ポドプラニンをターゲットとした抗体医薬として新規の抗ポドプラニン抗体であるNZ-1を開発した。
名古屋大学医学部附属病院で手術を受けた日本人患者の手術検体を用い,腫瘍組織にNZ-1によるポドプラニンの免疫染色を行なった。悪性中皮腫の組織型別に分類したところ,上皮型が86.7%,二相型(上皮型と肉腫型が混在)が66.7%であり,全体で83.3%と8割以上の方にポドプラニンの発現が見られた。
白人と日本人の悪性胸膜中皮腫の細胞におけるポドプラニンの発現を比較したところ,どちらの人種の細胞でも同様にポドプラニンの発現を認め,人種を超えて広く悪性胸膜中皮腫に発現していることが示唆された。
次に,抗ヒトポドプラニン抗体であるNZ-1と水溶性光感受物質であるIRDye 700DX(IR700)の複合体を合成し,NZ-1-IR700を作製した。NZ-1-IR700を用い,ヒト悪性胸膜中皮腫がん細胞に対する近赤外光線免疫療法を実施した。
顕微鏡で観察したところ,近赤外光の照射後,速やかに細胞の膨張,破裂,細胞死が見られた。標的細胞(ポドプラニン陽性ヒトがん細胞)と非標的細胞(ポドプラニン陰性ヒトがん細胞)を共培養し,同時に近赤外光を照射したところ,標的細胞のみに細胞死がおこり,非標的細胞には特に影響はなかった。
マウスのがんモデルにおいて,経静脈的に薬剤を投与しても腫瘍部位に充分に薬剤が到達することが確認できた。また,マウスのがんモデルにおいて治療の結果,明らかな腫瘍の増大抑制が確認でき,マウス胸膜播種悪性中皮腫モデルにおいても顕著な腫瘍縮小効果が得られた。
今回の研究では,ヒト悪性胸膜中皮腫外科切除検体でのポドプラニンの発現を検討した上で,NIR-PITとNZ-1を組み合わせ,ポドプラニンを標的とする悪性中皮腫に対する近赤外光線免疫療法の効果を証明し,悪性胸膜中皮腫に対して有望な新規の治療法になりうることが示唆されたとしている。