理化学研究所(理研),東京理科大学,中国 華中科技大学,ドイツ電子シンクロトロン研究所の研究グループは,高強度かつ任意の光電場を作り出せる「光シンセサイザー」の開発に成功した(ニュースリリース)。
高強度光科学は,極めて強い光の場と物質の相互作用を取り扱う研究分野であり,これまでさまざまな応用分野を切り拓いてきた。中でも代表的なのが,「高次高調波発生」と呼ばれる波長変換法を用いた「アト秒レーザー」の開発。
アト秒レーザーでは,アト秒という極めて短い時間に「一瞬だけ光る」レーザー光をカメラのストロボのように使うことで,究極的には「原子内で動き回る電子の動き」をも観測できるようになるため,多くの研究者がアト秒レーザーの時間幅を縮めることにしのぎを削ってきた。
その一方で,アト秒レーザー光は,電場の振動回数が2~3回しかない特殊な「励起レーザー」を用いて発生させる必要があるが,高出力かつ電場振動が数回振動の励起レーザーを開発することは技術的に容易ではなく,非線形光学現象など強い光の場を扱う研究にアト秒レーザーを利用することが難しいという問題があった。
今回,研究グループは,波長の異なる3色のフェムト秒レーザーパルス(ポンプ光800nm,シグナル光1350nm,アイドラー光2050nm)を時空間で精密に制御・合成することで,アト秒レーザーを極めて強く発生できる光シンセサイザーを開発した。光シンセサイザーは,波長の異なる多色の光パルスを独立に増幅し,それを時空間で精密に制御・合成するレーザー技術。
この光シンセサイザーは,2.6TWのピーク出力を持ち,近赤外域において1オクターブを超える波長帯域(800~2020nm)をカバーできる。さらに,光シンセサイザーの電場形状を精密に制御し,励起レーザーとして用いることで,光子エネルギー65eVにおいてピーク出力が1GWを超えるアト秒レーザーを,光シンセサイザーによって励起電場形状を安定化させることで,強度変動を4%低減することにも成功している。
光シンセサイザーにより特殊な励起レーザー電場形状を作り出しアト秒レーザー発生を行なうと,これまでのような正弦的な励起レーザー電場を使用する場合より,アト秒レーザーの波長を3倍短波長化できることが計算機シミュレーションにより示されているという。
つまり今回の成果により,極端紫外域で制限されてきたアト秒レーザーを軟X線域においても極めて強いピーク出力で安定に発生することが可能となり,GWを超えるピーク出力を持つ軟X線アト秒レーザーの開発につながるとしている。