高エネルギー加速器研究機構(KEK),東京大学,J-PARCセンターら,12ヶ国,69の研究機関から約500人の研究者が参加する長基線ニュートリノ振動実験(T2K実験)の研究グループは,ニュートリノが空間を伝わるうちに別の種類のニュートリノに変化するニュートリノ振動という現象において「粒子と反粒子の振る舞いの違い」の大きさを決める量に,世界で初めて制限を与えることに成功した(ニュースリリース)。
CP位相角と呼ばれるこの量は,ニュートリノの基本的性質を示す量の一つであり,理論的には-180度から180度の値を取り得るが,これまで全く値がわかっていなかった。
T2K実験では,茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCで大量のミュー型ニュートリノまたは反ミュー型ニュートリノを生成し,295km離れた岐阜県飛騨市神岡にあるスーパーカミオカンデ検出器で測定している。ニュートリノの一部は,295kmを飛行する間にニュートリノ振動現象によりミュー型から電子型に変化する。
ニュートリノ振動現象においてCP対称性が破れていると,ミュー型から電子型への変化確率に,ニュートリノと反ニュートリノで違いが生じる。破れの大きさを決める量はCP位相角と呼ばれ,-180度から180度の値を取り得る。
0度と180度であった場合はCP対称性が保存していることに,それ以外の角度であった場合にはCP対称性が破れていることになる。CP位相角が-90度の場合には,電子型ニュートリノへの変化確率が最大に,反電子型ニュートリノへの変化確率が最小になる。90度ではその逆となる。
2018年までにT2K実験が取得したデータから,電子型のニュートリノが90個,反ニュートリノが15個観測された。実際の測定では,測定器が物質でできていることなどから,ニュートリノの方が反ニュートリノよりも観測されやすいため,観測数から振動の確率を注意深く決める必要がある。
観測された結果は,CP位相角が-90度である場合に予想される観測数(ニュートリノで82個,反ニュートリノで17個)に近く,CP位相角が90度の場合の予想観測数(ニュートリノで56個,反ニュートリノで22個)とは大きく異なった。今回,CP位相角の値を推定するために必要な統計的手法を更新し,CP位相角の値として,-2度から165度の領域が99.7%の信頼度で排除されることがわかった。
今回の研究結果は,ニュートリノに,粒子と反粒子の性質の違いがあるかどうかの問題に大きく迫る成果であり,今後の測定精度を高めた検証が期待されるとしている。