産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,高齢者・障害者配慮設計指針の基盤技術となるアクセシブルデザインに関する4件の国際標準化機構(ISO)規格を作成し,それら4件が2019年に国際規格として制定された(ニュースリリース)。
高齢者や障害者にとって使いやすい製品やサービスの必要性は広く認められているが,統一的な設計の指針がなかったため,産総研では,人間感覚特性の計測実験データに基づいたアクセシブルデザインの標準化活動を行なってきた。
今回,高齢者や障害者を対象として「1:浮き出し(触覚)記号・文字を触った時の分かりやすさ」,「2:最小可読文字(読むことができる最小の文字)サイズ」,「3:報知光(お知らせランプ)の見やすさ」,「4:音声ガイド(音声案内)の聞き取りやすさと分かりやすさ」の触覚・視覚・聴覚に関する新たな4件の規格を作成し,ISO規格として制定された。
これらの規格の制定により,高齢者・障害者配慮の製品設計に係る一連の基盤技術が整備されたことになる。規格作成にあたっては,これまで産総研が構築してきた国内の計測データベースの活用や,産総研から米国,ドイツ,韓国,中国,タイの関係機関に呼びかけ,必要に応じて同様の条件で国際比較のための人間の感覚データを収集する国際研究活動も行なった。
「3:報知光(お知らせランプ)の見やすさ」については以下の通り。
ISO 24550:2019:人間工学-アクセシブルデザイン-消費生活製品の報知光
家電製品には電源のON/OFFなど,製品の状態を示す報知光(お知らせランプ)が用いられている。これらは故障や注意喚起に必須な情報であり,見えにくいとさまざまなトラブルが生じる。
このため,視力の悪い人でも点灯していることがはっきりわかる,見やすい報知光のデザインが求められる。しかし,これまで報知光の設計は統一が取れていなかった。
産総研では報知光の輝度(明るさ)について920点の製品の計測調査を行ない,その後多数の高齢者(約300名)やロービジョンの人(約50名)を対象に,報知光の見やすさに関する人間工学的研究を実施した。明るさや色,点滅する光源を見た時の見やすさやまぶしさ(グレア)に対する心理的評価を行ない,最適値を設定した。
今回制定された規格はこれらの結果をもとに制定されたもので,報知光をデザインする時の明るさや色などの視覚的要件をまとめ,高齢者やロービジョンの人までを含めて見やすく設計する指針となる。環境の明るさや暗さを考慮しながら,高齢者やロービジョンの人にも見やすい報知光がデザインできる推奨値が記されている。
今回制定された4件のISO規格は,今後ISO対応のJIS(日本産業規格)として日本語版の制定が検討される予定としている。