海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究グループは,ハイパースペクトル画像診断(HSI)技術を用いたマイクロプラスチックの高速な検出分類手法を確立した(ニュースリリース)。
従来の計測は,ニューストンネットで採集した粒状試料を顕微鏡などを用いてマイクロプラスチックを一粒ずつ拾い出して材質分析するのが一般的で,時間と手間がかかる上,ネットの目を通り抜ける300 µm以下の微小サイズの粒子については計測があまりなされていなかった。
研究グループは素材の分かっているプラスチック粒子を対象に,HSI計測の条件を最適化したところ,ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリスチレン(PS)等,主なプラスチックについて,反射スペクトルの特徴の違いをもとに,100µmの微小サイズまで高速で検出・分類できることを確かめた。
具体的には,11種類の身近なプラスチック素材の近赤外波長範囲(900−1700nm)での反射スペクトルを計測し,それを基準とした類似性に基づいて,プラスチックの材質の識別を進めた。
最適化の際にはまず,近接マクロ撮影のためのレンズ配置や照明条件を工夫した。その上で,微小なプラスチック粒子からの微弱な信号をとらえるため,ターゲットとなる粒子を画像識別しやすく,海水をろ過したフィルターをそのまま解析できる,高いろ過性能を持つ「背景」材料を選定した。
特に,300µm以下の微小粒子も保持できるようなろ過材が求められたが,この研究の結果,これらの条件を満たす背景材料として,金コートフィルターが最も適切であることが分かった。
金コートフィルター上では,100µm程度の大きさでも,PE,PS,PPそれぞれの素材に固有の反射スペクトルパターンを十分に保持していた。その特長をもとにしたスペクトルアングルマッパー識別アルゴリズムでも十分に素材同定ができていることもわかった。この画像解析の水平解像度は約15µmであり,カメラに用いているセンサーの画素サイズに近い値を達成している。
また,GF10などのガラスフィルターについても,反射スペクトルの波長パターンがフラットで,ろ過素材としての条件を満たすことがわかり,金コートフィルターより安価な代替材料として利用可能であることも見出した。
さらに,1cm×1cmのフィルター面をスキャンするのに要する時間は約10秒で,従来のフーリエ変換赤外分光法に比べ,約100倍の速さで評価が可能であることも確かめられた。今後は次の段階として,海水中の実サンプルへの適用を実施する予定としている。