島根大学は,透過電子顕微鏡を駆使して,タングステンからなる金属において,欠陥の低温での量子拡散が起こることを世界で初めて実証した(ニュースリリース)。
金属における原子配列の乱れ(欠陥)の動き(拡散)は,異なる種類の原子同士を混ぜるプロセス(合金化)などを支配する重要なもの。拡散の激しさ(拡散係数)の温度依存性は,約1世紀前にスウェーデンのアレニウス博士が定式化した「アレニウスの法則」によって記述される。
アレニウスの法則によれば,温度の低下とともに,拡散係数は急激に低下して低温ではほぼゼロになる。すなわち,低温では拡散は起こらなくなる。
一方で,水素等の極めて軽い原子だけは,低温でも,拡散係数がゼロにならない,すなわち拡散が起こることが知られている。この現象は,現代物理学の根幹をなす「量子力学」によって説明されるものであり,「量子拡散」と呼ばれる。
この研究では,透過電子顕微鏡を駆使して,水素の184倍の質量を持つタングステンからなる金属において,欠陥の低温での量子拡散が起こることを世界で初めて実証した。
この成果は,鉄鋼材料などを低温で改質する新たな道を開き得るものだという。また欠陥が多量に導入される材料(たとえば,将来のエネルギー源である核融合炉の材料)の開発に役立つとしている。