東工大ら,ペロブスカイトに圧力印加で新知見

東京工業大学,神奈川県立産業技術総合研究所,量子科学技術研究開発機構,高輝度光科学研究センター,台湾國家同歩輻射研究中心,中国科学院物理研究所,独マックスプランク研究所,仏 放射光施設SOLEIL,英エジンバラ大学の研究グループは,「Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3」という他に例のない電荷分布を持つペロブスカイト型酸化物コバルト酸鉛(PbCoO3)に圧力を印加すると,スピン状態転移と電荷移動転移を生じることを発見した(ニュースリリース)。

ペロブスカイト型酸化物は,強誘電性,圧電性,超伝導性,巨大磁気抵抗効果,イオン伝導など,多彩な機能を持つため,盛んに研究されている。こうした機能は,3d遷移金属が担っており,その価数やスピン状態によって変化する。しかし,スピン状態と価数の両方が変化する物質は非常にまれとなる。

研究グループは2017年にPbCoO3がPb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3(平均価数はPb3.5+Co2.5+O3)という特殊な電荷分布を持つ新しい化合物であることを発見している

Co2+はd軌道の7つの電子が持つスピンのうち,5つが平行,2つがそれらに反平行に揃った,高スピンという状態を持っているため,差し引き電子3つ分の磁化を持つ。それに対し,Co3+は6つの電子のスピンが3つずつ上向き,下向きになっているため,磁化を持たない。

今回の研究では,Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3の電荷分布と高スピンのCo2+を持つPbCoO3の圧力下の振る舞いを,大型放射光施設SPring-8のビームラインBL12XUでのX線発光分光実験と高分解能X線吸収分光実験,そしてBL22XUでの放射光X線粉末回折実験によって詳細に調べた。

その結果,15GPa(ギガパスカル)までの圧力で,高スピン状態のCo2+が,上向きスピン4つ,下向きスピン3つの低スピン状態へと変化し,さらに30GPaまでの間にPb4+とCo2+の間で電荷の移動が起こり,Pb2+0.5Pb4+0.5Co3+O3の電荷分布へと変化することがわかった。高スピン状態から低スピン状態への変化でも,Co2+からCo3+への変化でも,イオン半径が収縮するため,体積の減少が起こる。

PbCoO3では,圧力を印加することにより,いずれも体積の減少に繋がるCo2+の高スピン状態から低スピン状態への転移と,Pb4+とCo2+の間の電荷移動が起こることが確認できた。

今後,PbCoO3に化学置換を施すことで,こうした変化を温度の上昇によって引き起こすことができれば,半導体製造装置のような高精度な位置決めが求められる場面において,熱膨張によるずれを抑制できる負熱膨張の発現も期待されるとしている。

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