東大ら,ミラーで200nmの軟X線ナノビームを形成

東京大学,高輝度光科学研究センター(JASRI)の研究グループは,高精度な回転楕円ミラーを用いた軟X線ナノビーム形成に成功した(ニュースリリース)。

軟X線の集光には,これまでゾーンプレートと呼ばれる光学素子が多く利用されているが,ゾーンプレートの素子のサイズが小さく全てのX線を受光できない点や,素子に入射したX線が集まる割合である「集光効率」が低く,また,波長が異なると異なる距離に集光してしまう「色収差」という問題があった。

これらの課題はミラーを使うことにより解決できる。波長がより短い硬X線領域や,波長が長い極端紫外光領域ではすでに集光ミラーが実用化された。しかし,軟X線領域では,ミラーの形状が大きく湾曲しかつ高い形状精度が求められるため,ナノ集光ミラーは実用化されていない。

東京大学では,軟X線集光を目的に,9年に亘って夏目光学と共同で,回転楕円ミラーと呼ばれる竹輪形状のミラーの製造技術開発を進めている。楕円形状をもつミラーの内面でX線が反射することで焦点に集まる。今回,夏目光学の加工技術と東京大学の精密な電鋳技術によりミラーが完成し,その評価をSPring-8の軟X線ビームラインBL25SUで行なった。

ミラーの集光性能を評価するために構築した専用の装置をビームラインの下流に設置し,竹輪形状の回転楕円ミラーの内面に軟X線を照射し集光した。また,軟X線のエネルギー(波長)を300eV(4.2nm),400eV(3.1nm),500eV(2.5nm)と変化させて実験を行なった。

軟X線ビームの評価は,タイコグラフィ法により行なった。タイコグラフィ法では,X線の集光点の近くで,微細構造をもつ試料を2次元走査させ,下流に設置されたCCDカメラにより,透過X線の散乱パターンをたくさん取得する。そして,位相回復と呼ばれる計算を行なうことで,試料の構造と軟X線集光ビームの性能を詳細に評価することができる。

300eVのときのタイコグラフィ法から得られた試料の透過像と,集光X線の強度分布では,200nmのサイズの軟X線ナノビームを確認した。また,軟X線のエネルギーを400eVと500eVに変更しても,同じ位置で集光していること(色収差がないこと)を確認した。さらに,タイコグラフィ法の結果を利用し,回転楕円ミラーの形状誤差も極めて正確に測定をすることができた。

これらの一連の成果は,ミラーにより200nmの軟X線ナノビームが形成されたことと,正確な集光ビームの診断が可能であることを示しており,将来目標とする50nmサイズの軟X線ビームの形成に向けた重要な成果だとしている。

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