富士キメラ総研は,5G通信や,ADAS・自動運転システムを中心とした自動車で需要が高まっているエレクトロニクス先端材料の市場を調査した。その結果を「2020年 エレクトロニクス先端材料の現状と将来展望」にまとめた(ニュースリリース)。
この調査では,半導体10品目,実装11品目,ディスプレー10品目,車載7品目,その他8品目の5分野46品目の市場を調査・分析し,将来を展望した。
2019年は,これまで拡大をけん引してきた半導体,実装,車載分野の多くの品目が米中貿易摩擦の影響や,自動車生産台数の減少により一時的に需要が縮小していることを受け,前年を下回るとみている。2020年以降は,5G通信やADAS・自動運転システムの需要が増加するとみており,市場の拡大を予想している。
・分野別市場動向
半導体はフォトレジスト,高純度フッ化水素,ダイボンドフィルムなどを対象とした。スマートフォン市場の停滞などにより2019年は微減となったが,2020年以降は5G通信やIoTでの需要増加により伸びるとみている。
実装は,フレキシブル銅張積層板やDBC基板などを対象とした。フレキシブルプリント配線板(FPC)やリジッド基板などの材料や,はんだ付けの際のペースト材料から受動部品まで幅広く採用されている。5G通信関連向けで製品開発などが活発に行なわれており,2020年以降は5G対応スマートフォン,5G基地局およびサーバーで需要が増加するとみており伸びを予想している。
ディスプレーは,表面処理フィルムやQDシートなどが対象。表面処理フィルムは,円偏光板で需要が増加している。また,偏光板でも安定した需要を獲得している。QDシートは,2017年までは限定的な採用にとどまっていたが,2018年,2019年は韓国Samsung Electronicsの増産,中国テレビメーカーの需要が増加したことにより急激に伸びているという。
車載は,車載用レンズ材料やHUD用中間膜などを対象とした。2019年は自動車生産台数が減少したことで微減とみているが,2020年以降はADAS・自動運転システムや車載電装品,環境自動車の部材で需要が増加していることから伸びを予想している。また,自動車生産台数の増加に伴い各品目が伸びるとみている。
その他は,放熱材料,ノイズ・電磁波対策材料など幅広い機能を有した材料を対象としており,特に自動車で需要が増加している放熱部材を中心に好調となる。
注目市場は以下の通り。
・基板用ガラスクロス(実装)
ヤーンという数μmのフィラメントを織機で布状にした製品となる。ガラス基材銅張積層板やコンポジット基材銅張積層板に使用されており,Eガラス,NEガラス,Lガラス,Qガラス,Tガラスなどの種類がある。
これまでは白物家電や車載電装品,スマートフォン向けなどを中心に市場は拡大してきたが,白物家電やスマートフォン市場が縮小している影響を受け伸びは鈍化している。今後は,5G通信向けのサーバーやデータセンター,基地局で需要が増加し,市場は拡大を予想している。
・HUD用中間膜(車載)
ウインドシールド方式のヘッドアップディスプレー(HUD)に使用されるガラス中間膜となる。
欧州を中心とした中・高級車でHUDの需要が大幅に増加したため,市場は拡大してきた。2019年は自動車生産台数の減少の影響を受け,市場は前年割れとみられるが,2020年以降は,自動車生産台数の回復に伴うHUDの需要増加により,再び市場拡大に転じると予想している。
・放熱メタル基板・放熱樹脂基板(その他)
放熱基板は主に金属ベース基板,セラミックベース基板,放熱樹脂ベース基板がある。放熱性や耐熱性を向上させた基板であり,金属(アルミ,銅)をベースとした基板と,エポキシ系などの樹脂を基材とした基板を対象とする。
放熱メタル基板は,HV,EV市場の拡大や自動車の電装化を背景に,電動パワーステアリングなどの自動車向けがけん引し市場は拡大している。また,インバーターエアコンや産業用ロボットでも需要は増加している。今後も自動車や業務・産業機器向けを中心に市場は拡大していくとみている。
放熱樹脂基板は,LED照明向けの金属ベース基板の代替品として市場が立ち上がった。自動車の内装照明,エアコンや冷蔵庫などの家電で採用されているが,LED照明の発熱量減少やコスト削減が可能なガラスコンポジット基板(CEM-3)への切り替えが進んでいることから,市場は今後縮小していくとみている。
・高純度フッ化水素(半導体)
半導体製造の洗浄工程で用いられる高純度薬液のうち,フッ化水素を対象とする。
2018年までは中国での設備投資の拡大などにより市場は拡大してきたが,2019年は半導体の在庫調整が行なわれたことから,前年割れを予想している。2020年以降は在庫調整が終わり,データセンター向け半導体関連での需要が増加するとみており市場拡大を予想している。
・DBC基板(実装)
DBC基板はアルミナ系酸化物基板に銅回路板をDCB法で接合させた放熱用材料となる。DCB法とはセラミック基板上に銅回路板を結晶反応により直接接合する方法。
高放熱・絶縁基板として採用が進んでおり,産業機器などの汎用インバーターや自動車などで需要は増加している。今後は,自動車の電装化の進展やSiCパワー半導体などの採用が本格化することなどにより自動車向けがけん引し,市場は拡大していくと予想している。
・フォトレジスト(半導体)
半導体素子などにパターンを形成するフォトリソグラフィーに使用される感光性材料であり,g線/i線レジスト,KrFレジスト,ArFレジスト,EUVレジストを対象とする。
半導体デバイスの微細化の進展によるフォトリソグラフィー工程数の増加に伴い,市場は拡大している。種類別にみると,g線/i線レジストはセンサーやパワー半導体などでの採用が多く,中でもMEMS(微小電気機械システム)での採用が増加しており,好調となるという。
KrFレジストは3D-NAND市場の拡大や積層数の増加によって,使用量が増えており伸びている。ArFレジストは半導体の微細化ニーズの高まりによって伸びている。EUVレジストは2018年に量産化が始まり,2020年ごろから市場が本格化するとみられ,今後の伸びを期待している。