東京工業大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK),J-PARCセンターの研究グループは,Dion-Jacobson相では初めての酸化物イオン伝導体(酸素イオン伝導体,あるいはO2− 伝導体ともいう)CsBi2Ti2NbO10-δを発見した(ニュースリリース)。
酸化物イオン伝導体は,固体酸化物形燃料電池,酸素分離膜,触媒およびガスセンサーなどに幅広く応用できる。高い酸化物イオン伝導度は,特定の結晶構造においてのみ発現するので,今まで酸化物イオン伝導体の報告がない新しい結晶構造グループに属する高酸化物イオン伝導体を発見すれば,酸化物イオン伝導体の革新的な応用につながると期待される。
Dion-Jacobson相は,層状ペロブスカイトの一種であり,様々な電気的特性,物理的特性,化学的特性を示すことが報告されている。ペロブスカイトおよび層状ペロブスカイトには多くの酸化物イオン伝導体の報告があるので,Dion-Jacobson相も酸化物イオン伝導性を示すと期待されるが,Dion-Jacobson相の酸化物イオン伝導体はこれまで知られていなかった。
研究グループは今回,Dion-Jacobson相としては初めての酸化物イオン(O2−)伝導体CsBi2Ti2NbO10-δを発見した。ここでδは酸素欠損量であり,定比組成CsBi2Ti2NbO10の酸素量は10であるのに対し,酸素が欠損したCsBi2Ti2NbO10-δの酸素量は10−δである。
この新型高酸化物イオン伝導体の発見にあたっては,結晶構造データベースと結合原子価法を用いた高速スクリーニングと,「Cs+のサイズが大きいこととBi3+の変位によるイオン伝導度の向上」という新概念からなる,新型高イオン伝導体の新設計法を適用した。
さらに,結晶構造解析から示された,酸素原子の大きな異方性熱振動,酸素空孔および酸化物イオン伝導層の存在が,高イオン伝導度発現の原因であることを明らかにした。
高い酸化物イオン伝導度を示す新型酸化物イオン伝導体 CsBi2Ti2NbO10-δの発見により,Dion-Jacobson型酸化物イオン伝導体という研究分野が生まれると考えられる。また,固体酸化物形燃料電池や酸素濃縮器の高性能化や,新しい酸化物イオン伝導体や電子材料の開発を促進すると考えられるという。
さらに,この研究で提案した新概念「大きなサイズのイオンとイオンの変位によりボトルネックが広がり,高い酸化物イオン伝導度を実現する」および結合原子価法によるスクリーニングという新手法により,今後他の新酸化物イオン伝導体が発見されるとしている。