東北大学,東京工業大学の研究グループは,これまで明らかにされていなかった鉄の不動態被膜形成初期過程を,高速X線反射率測定によって解明した(ニュースリリース)。
研究グループは,大型放射光施設SPring-8の表面X線回折ビームラインBL13XUを用いたX線反射率法により酸化被膜の密度と厚さを25ミリ秒の時間分解能で測定した。通常のX線反射率法は数分以上の時間がかかる手法だが,試料の特性に合わせた測定法の工夫で1000倍の高速化を達成した。得られた実験結果をベイズ推定の手法で解析する事で,信号強度の弱い一枚一枚の写真から実際の界面構造を取り出すことができた。
できあがった不動態は,従来から考えられていた通り密度の高い内層と密度の低い外層の二層構造だった。内層の形成過程は,被膜形成開始から2秒後以降は従来から提唱されていた理論で完全に説明できたが,最初の2秒間はこの理論から外れた振る舞いをした。
最初期の0.4秒間は内層の密度が低く,まずは膜の厚さを増加することを優先した成長過程を示すことが明らかになった。研究グループではこの結果をもとに,金属鉄から黒錆ができる原子スケールのメカニズムを提案した。
この研究では,鉄や多くの金属材料の表面を保護している不動態被膜の形成過程を実験的に観測し,その原子レベルでの成長過程を解明した。従来の理論は確かに殆どの「遅い」過程を説明するが,被膜が成長し始める最初期の状況を説明できない事を明らかにした。
また,固体と液体の界面で進行する化学反応を,生成物の空間分布から実時間観測する手法を提示した。今後,物理的な理解が難しい固液界面の化学反応に関する研究に新しい情報が加わる事が期待されるとしている。