東北大学,折原製作所の研究グループは,化学強化ガラスにおける残留応力を高い空間分解能(~1μm)で非破壊・非接触に評価する手法を開発した(ニュースリリース)。
酸素とケイ素(Si)などを主成分とする酸化物ガラスは,古くから人工的に生成され,ガラス瓶や窓ガラス,そして光ファイバーなど,透明で美しい材料として生活に身近な材料の一つになっている。しかし,ガラスは脆く壊れやすい材料でもあり,ちょっとしたキズが要因で割れてしまう。
化学強化ガラスは,イオン交換という化学方法により,イオン半径の大きな原子をガラス表面から浸透させて圧縮応力層を形成し,このキズによる割れやすさを克服した。割れにくいという性質を利用して,スマートフォンやタブレットなど,携帯端末のカバーガラスとして爆発的に普及したが,その強さは残留圧縮応力の大きさと空間分布に強く影響される。
ガラスは,規則的で均一な構造を持つ結晶材料とは大きく異なり,空間的に不均一な網目のような構造を持つ。そのため,イオン交換によって生じる応力の変化は微小な構造ごとに異なり,不均一な空間分布を持ち,小さなキズによって特に割れやすい領域があると予想されているという。しかし,従来の検査方法では数mm~cm程度が限界であり,その空間分布の詳細を知ることは困難だった。
研究グループでは,ラマン分光法によって,種々のガラス構造を統一的に特長付ける研究を従来から進めていた。ボソンピークと呼ばれるガラスに特有の分光特性が,その単位体積とある一定の関係を持つという発見もその一つ。
今回,それらの知見を活かし,顕微ラマン分光と「詰め込み効果」(ガラス内部のアルカリイオンをイオン半径のより大きなものに交換することによってガラスの網目構造が圧迫される現象のこと)と呼ばれる強化の基礎モデルに基づいて残留応力の局所評価式を導出し,市販の化学強化ガラスの残留応力分布を求めることに成功した。
この評価式はガラスの組成や網目構造に関する情報を含むことから,残留圧縮応力の空間分布をµmの空間精度で評価でき,強さの主体となる起源を明らかにできると考えられるという。
今後,この画期的な方法によって強化ガラスの緻密なデザインが可能となり,「割れにくい」からより強くて「割れない」ガラスの開発や品質管理への応用が期待されるとしている。