名古屋大学,北海道科学大学,名古屋医療センターのグループは,乳癌が基本的に1つの乳腺葉を侵す疾患であること(sick lobe理論)を,乳癌により全摘された51症例の乳頭をX線暗視野CTにより可視化することで明らかにした(ニュースリリース)。
X線暗視野法は,これまでのX線CTでは観察できない生体内の柔らかい組織(乳腺や臓器等)を,顕微鏡による組織切片の観察に匹敵する高いコントラストで可視化することができる。
研究グループは,高い輝度で高い平行性を持った特別なX線を利用できる加速器施設,高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所 フォトンファクトリー(KEK-PF)で,この方法の画質向上や高速化に取り組み,様々な生体試料の3次元微細解剖構造を効率よく解析できる技術的基盤を整備した。
一般的に,生体の微細解剖学に関する研究は,病理診断の伝統的技術であるミクロトームによる組織の薄切と染色によって作製される組織切片を光学顕微鏡で観察することで行なわれる。しかし,この方法は,膨大な数の切片を必要とする3次元観察のため,労力がかかりすぎるという問題があった。
近年,乳癌の予防あるいは治療後の外観を維持するために,乳房の乳頭・乳輪・皮膚を残し乳腺を切除する乳頭温存乳腺全摘術が行なわれるようになったが,乳頭内乳管の3次元配置や乳頭内乳管癌の発生メカニズムについてまだ完全に分かっておらず,リスクが存在する。
この研究では,乳癌により全摘された51症例の乳頭組織をX線暗視野法を用いて撮像し,乳頭温存乳腺全摘術のリスク低減につながる乳頭内乳管の3次元情報を得ることを目的としている。
51症例の解析により,乳頭内乳管数,乳頭先端における乳管の合流点(開口)数,乳頭内乳管の3次元配置が3つのタイプに分類できることを明らかにした。また,51症例のうち9症例(18%)は乳頭内に癌があり,そのうち6症例は非浸潤性乳管癌であることが分かった。
この6症例について,1つの乳腺葉で発生した癌であるか否かをCTの3次元観察により調査した。その結果,6症例中5例は1本の乳管のみに癌が存在した。1例には乳頭内の3本の乳管に癌が存在したが,それら3本の乳管は先端で合流するため,1つの乳腺葉に属する可能性が高いという。
現在,撮影された画像から,乳頭のさらなる解析を進めており,乳頭内乳管には頻度は低いが枝分かれが存在することが明らかになっている。これが,異なる乳腺葉の乳管の吻合であるか否かは興味深いとしている。