東京大学の研究グループは,液体・液体相転移を特徴づける局所的な構造と液体の流動性との関係を,新たに考慮した理論モデルを提唱し,理論解析およびシミュレーションにより,局所的な構造のゆらぎとその流動が相転移ダイナミクスにおいて果たす役割を解明することに成功した(ニュースリリース)。
従来,液体は秩序のない乱雑な構造を持つと考えられ,そのため,純粋な一成分からなる物質には,1つの相しか存在しえないと考えられてきた。しかし近年,水や亜リン酸トリフェニルといったいくつかの物質で,局所安定構造の形成に伴い異なる2つの液体相の間の相転移,すなわち液体・液体相転移が起こることが報告されている。
この事実は,液体を記述するにあたって,液体の流動性に基づく流体力学のみでは不十分であり,局所安定構造の形成とそのゆらぎを取り入れた理論の必要性を示唆している。
研究グループは,この問題を解決すべく,局所安定構造の生成・消滅を伴う流体力学理論を構築し,理論解析および数値シミュレーションにより,液体・液体相転移において流体力学的輸送が果たす役割を解明することを試みた。
まず,局所安定構造の生成および消滅それ自体はどこでも独立に起こり得る,すなわち,どこかに生成されたらどこかで同じだけ消滅しなくてはならないという保存則は存在しない。その結果として,液体の動的光散乱において,保存則を基礎とする流体力学だけでは説明不可能な特異なスペクトルが現れることを理論的に予測した。
次に,2つの液体相の間で相転移が起こるとき,局所安定構造の形成に伴い両相で密度(あるいは体積)が変化する。流体力学によれば,密度の輸送のためには流動が必要となる。そのため,液体相間の密度差に応じて,相転移に際して流動が必ず誘起され,その結果,相転移が加速あるいは減速されることを,理論およびシミュレーションにより示した。
このとき,液体・液体相転移には,熱力学的に準安定状態の液体から相転移が起こる核生成・成長型と,より低温での熱力学的に不安定な状態から相転移が進むスピノーダル分解型とに分類される。
その両方の場合について,相転移のダイナミクスについてよく知られた古典理論から,流動性に起因したずれが生ずることをシミュレーションにより見出し,そのずれが局所安定構造の非保存性によるものであることを明らかにした。
この研究は,局所構造の流れによる輸送が,液体の運動の特性に与える影響を明らかにするだけでなく,液体・液体相転移を流動により制御する上での指針を与えるとしている。