豊橋技術科学大学,名古屋工業大学,物質・材料研究機構(NIMS)の研究グループは,シリケート(Ca2SiO4)系材料に P2O5とEu2O3を添加した赤色蛍光体材料を,様々な熱処理温度で結晶構造を変化させ,その違いにより発光強度が変化するメカニズムを解明した(ニュースリリース)。
蛍光体材料の用途は広く,照明のほかにも液晶TV・モニター向けバックライト,車載用などがある。今後,ますます用途が多様化し,さらに省エネ,低コスト,高演色,長寿命化実現のために,新材料開発には多くの研究者らによる競争が進み,学会でも注目度が高い。
そのため,新規蛍光体材料開発において,その特性と発現メカニズムの解明は重要な知見となる。しかし,多くの蛍光体材料の開発は,より明るく,高効率の材料を求める一方で,メカニズム解明の詳細に関する論文は多くない。
研究グループは,シリケートは熱により容易に結晶構造を変化させるため,シリケートにPと賦活剤としてのEu3+を添加した赤色蛍光体を,熱処理温度を1200度~1500度と変えて合成した。ここで,賦活剤とは,結晶に入ることにより,青から赤色までいろいろな発光色を発する元素(イオン)のことをいう。
研究の結果,熱処理温度により発光強度は変化し,結晶構造変化と密接な関係があることが分かった。1500度で熱処理をした蛍光体材料の結晶構造が,セラミックス材料にはめずらしい不整合構造(Incommensurate:IC)に変化したことに注目した。
通常の結晶構造は,整数倍の周期だが,IC相は非整数倍の変調を有する結晶構造。IC相の形成により発光強度は低下した。そこで,X線回折法と計算科学を駆使することにより,原子レベルで結晶構造を詳しく解析することに成功した。
解析の結果,b-方向に4.110倍の変調構造を有し,その構造はSiO4四面体の3種類(T,U,S)の傾きが存在すること,長い周期でみるとさらに2種類(T”,S”)の傾きの存在により,IC相を構成していることがわかった。
このような複雑なIC相が形成された理由は,SiO4四面体の一部にPが存在すること,Caの一部にEuが存在すること,さらに1500度の高温から急冷処理により形成されたことが考えられるという。
今回のような正確な結晶構造の解析により,より明るい発光強度を有する材料合成のためには,どの結晶サイトに賦活剤が入ればよいか,どういう結晶構造が好ましいのか,などを知ることができ,新材料設計に今回の知見が活用できるとしている。