慶大,窒素・酸素ハイブリッド型クラウン分子を創出

慶應義塾大学の研究グループは,適度な立体的自由度を有する新規クラウン分子としてキノリン3量体oxa-TriQuinoline(o-TQ)を新たにデザイン・合成し,その多彩な機能性を明らかにした(ニュースリリース)。

ポルフィリンやクラウンエーテルは古くから知られる大環状構造を特徴とするクラウン分子であり,中心空隙における各種金属イオンの捕捉に呼応して各種分子機能を獲得することから,広範に研究されてきた。

研究グル―プは,含窒素グラフェンの最小モデル分子として,1原子サイズの空隙を有する平面性キノリンや3量体TriQuinoline(TQ)をデザイン・合成し,その分子特性を明らかにしている。

研究では,このTQの構造を基盤として,クラウンエーテルや含窒素ポルフィリンの構造特性を抽出・融合させた新規ハイブリッド型クラウン分子oxa-TriQuinoline(o-TQ)をデザインした。

TQのキノリン環連結部位に酸素原子を挿入することで,o-TQは適度な剛直性を有する立体型クラウン分子として挙動し,その拡大した中心空隙で金属を捕捉して多彩な機能性材料展開が期待される。

研究グル―プは,キノリン単量体中の官能基特性を精査し,簡便かつ低コストなo-TQの単工程合成手法を確立。その構造が窒素原子が互い違いの方向を向く屈曲型構造であることを明らかにした。

これは金属錯体の形成には不利だが,金属錯体化によりボウル型構造が有意になることが示唆され,実際に室温下で一価の銅塩を添加することで,ボウル型錯体o-TQ/Cu(I)を形成した。

ボウル形状のπリッチな背面は,曲率が酷似した芳香族化合物であるコランニュレンと超分子錯体を形成する。フラーレンとも会合的に超分子錯体を形成することから,将来的な機能性分子o-TQの精密配列に寄与する知見だとする。

o-TQ自身ならびに溶液状態の一価銅錯体o-TQ/Cu(I)には発光特性がない一方,o-TQ/Cu(I)のメタノール溶液に水を添加することで発光強度が顕著に増強し,o-TQ/Cu(I)の会合析出に伴って発光する凝集誘起発光(AIE)特性を示すことが明らかになった。

固体状態のo-TQ/Cu(I)錯体は,一価銅の4座目の配位子(L)によって発光色の変調も可能で,L=CH3CNは発光波長539nm,発光量子収率24%,発光寿命36μsを示した。

o-TQはtripodal型3座配位子として有用化学反応の触媒として機能する。研究グループは,安価な銅と簡便に合成できるo-TQの構造修飾により,更なる機能展開が期待されるとしている。

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