沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,粘弾性流体が,繊毛の周りをどのように流れるかについての重要な特長を明らかにした(ニュースリリース)。
ヒトの関節内には特殊なねばっとした液体が流れており,粘液などの物質を構成している。特に興味深い構造は繊毛で,これは細胞膜に付着した小さな毛のようなもので,うねりながら気道から異物を除去するなどの機能を果たす。
このような流体と微細構造物との相互作用は,繊毛が,生物学的役割を果たすためにどのように動くかを正確に理解するために重要な問題となる。しかしこの相互作用は,非常に小さなスケールで起きる現象であるため,実験的に研究することは非常に困難だった。
まず研究グループは実験準備として,溶融シリカガラスでマイクロチャネルを作製した。これらのチャネルは,1〜2つの柔軟性のある円筒状のシリンダーをチャネルの片側に取り付けており,これらのシリンダーを繊毛に見立てている。
次にシリンジポンプを使い,粘弾性溶液を正確に制御された速度でガラスのマイクロチャネル内に通過させた。実験に用いた流体は,ヒト体液中に存在する生体分子の動きを模倣したミクロンサイズの柔軟な構造であるひも状ミセル(リビングポリマー)を含んでいる。
さらに,異なる光学技術を用いた3つの高倍率顕微鏡をそれぞれ用いて一連の測定を行ない,シリンダーと相互作用する流体の挙動と特性を把握しようと試みた。
まず,粒子画像流速測定法を用い,シリンダー周辺を流れる液体の速度を記録した。流体がシリンダーの一方の側を優先的に移動し,他方の側には実質的に静止した流体が残る事象が観察された。しかしある一定の流体速度においては,静止側の流体も,ぴくぴくと振動しながらゆっくりと流れ始めた。
流体が移動すると,シリンダーが振動し始めた。高速ビデオ顕微鏡を用い,シリンダーの振動を時間の関数として注意深く追跡できたことは,研究における重要な成果となった。
また高速度偏光顕微鏡法を用いることで,円筒状シリンダーの周りの領域を追跡することができ,ひも状ミセルが弾性的にどれだけ伸長したのかをシリンダーの位置と関連付けて解析することに成功した。
さらに,シリンダーが流体と相互作用している間,互いに近くにある2本のシリンダーがほぼ完全に同調して振動し始めたことから,繊毛の同調した拍動は流体の弾性により引き起こされていることが示されたという。
シリンダーの同調性のある動きは,完全に流体自身の性質で決まるが,これは特定の条件下でのみ発生する。仮に流速を上げ,流体の弾性を変化させると,振動の規則性は失われ,乱雑な動きになってしまう。
研究グループは今後,円柱状のシリンダーの柔軟性と距離を変えることで,その挙動にどのような影響を与えるかを研究したいという。繊毛の配列を模倣するため,最大20本のシリンダーを備えたより大きなシステムで,この研究の繰り返し実験を予定している。