自然科学研究機構(NINS)アストロバイオロジーセンターの研究グループは,水素に富む大気に着目して,TRAPPIST-1周りの7個の地球サイズの惑星が一次大気を過去に獲得し,現在まで保持可能かどうかを惑星形成論の観点から検証した結果,惑星形成段階では,7個の惑星は質量の0.01%から数%程度の一次大気を獲得した可能性があることがわかった(ニュースリリース)。
2018年,太陽系近傍(約12.43 pc)の超低温度星TRAPPIST-1周りで7個の地球サイズの惑星の発見が報告された。TRAPPIST-1の惑星系は,生命居住可能な地球サイズの惑星(ハビタブル惑星:表面に液体の水が存在可能な惑星)の候補としても注目されている。
惑星の生命居住可能性を議論する上で,惑星の大気量および大気組成は重要な指標となる。実際,現在の地球の平均気温が約15℃に維持されるのは,水蒸気や二酸化炭素に代表される温室効果ガスの寄与が少なからずある。TRAPPIST-1周りの7個の惑星のうち6個については,トランジット(星の前面を惑星が通過する現象)時の透過分光観測から,何らかの大気を保持している可能性が示唆されている。
惑星の大気の起源としては,周囲の原始惑星系円盤ガス由来の水素・ヘリウムに富む大気(一次大気)と地質活動(例:火山)や天体衝突などに伴う二次大気(例:二酸化炭素や水蒸気)の2つがある。前者は惑星形成時に惑星が重力的に獲得する大気,後者は惑星誕生後の惑星内部あるいは外的要因で生成される大気となる。
水素分子同士の衝突による光吸収(衝突誘起衝撃吸収)も温室効果として働き,惑星表面の温度上昇につながることが知られており,惑星の生命居住可能性を考える上で,現在の地球のような二次大気と同様,水素に富む大気の有無および大気量も重要といえる。
そこで,今回,水素に富む大気に着目して,TRAPPIST-1周りの7個の地球サイズの惑星が一次大気を過去に獲得し,現在まで保持可能かどうかを惑星形成論の観点から検証した。その結果,惑星形成段階では,7個の地球サイズの惑星は質量の0.01%から数%程度の一次大気を獲得した可能性があることがわかった。しかし,その後,数億年間にわたって,星からのX線や紫外線に晒されることで,獲得した一次大気はすべて宇宙空間に散逸してしまうことがわかった。
以上から,TRAPPIST-1周りの7個の地球サイズの惑星が現在も大気を保有しているとすれば,それは二次大気である可能性が高いことになる。二次大気を有する可能性が高いTRAPPIST-1周りの地球サイズの惑星は,2020年代に打ち上げ予定のJames-Webb宇宙望遠鏡(JWST)で大気組成を観測する重要なターゲットになるとしている。