理化学研究所(理研),名古屋大学の研究グループは,これまで単一のプローブしか解析できなかったベータ線イメージング装置にガンマ線を捉える検出器を組み込むことで,複数のプローブを同時に解析できる新装置「MI-IP(Multi-Isotope Imaging Plate)」を開発した(ニュースリリース)。
今回研究グループは,ベータ線を放出する核種の多くが,ベータ崩壊に伴いエネルギー値が核種に固有であるガンマ線も放出することに着目した。ベータ崩壊には,電子を放出する「ベータマイナス崩壊」と,陽電子を放出する「ベータプラス崩壊」がある。
このうちベータマイナス崩壊には2つのパターンがあり,ベータ崩壊に伴い電子のみを放出し娘核の基底状態に遷移する核種は,ガンマ線の放出を伴わない。一方,ベータマイナス崩壊後に娘核の励起状態に遷移する核種は,娘核の励起状態から基底状態に遷移する際に核種の「脱励起ガンマ線」に固有のエネルギーを持つガンマ線を放出する。
また,ベータプラス崩壊では,放出された陽電子は近傍の電子と対消滅を起こし,エネルギーの「対消滅ガンマ線」が511keVのガンマ線を生成する。したがって,これらのベータ崩壊に伴い放出されるガンマ線(脱励起ガンマ線,もしくは対消滅ガンマ線)をベータ線と同時計測することで,核種を特定できると考えられる。
そこで,ベータ線イメージング用のピクセル検出器にガンマ線検出器を追加し,同時計測を可能とした「MI-IP」のプロトタイプ装置を開発した。この装置では,ベータ線イメージング検出器として,1枚のLa-GPSシンチレーション検出器(35×35×1mm3)にダイシングソーと呼ばれる加工機を用いて100μm幅の溝を掘ることで,300μm角にピクセル化したものを使用している。また,ガンマ線検出器としては,43×43×16mm3のBGOシンチレーション検出器を使用している。
このプロトタイプ装置を用いて,電子のみを放出する核種(カルシウム-45,45Ca)と,陽電子および消滅ガンマ線を生成する核種(フッ素-18,18F)を分布させた対象を撮像した。ベータ線の検出イベントは,ガンマ線の同時計測を伴うものと伴わないものがランダムに生じるが,ガンマ線の同時計測を伴わないベータ線検出イベントを画像化した場合は,両方の核種が現れる。
これに対してガンマ線の同時計測を伴うイベントを抽出すると,18Fのみの画像が得られた。これらの結果から,画像化された2種類のベータ線放出核種のうち,陽電子放出核種の特定が可能であることを実証できた。
この研究成果は,高感度で定量性に優れたベータ線イメージングの応用範囲を広げ,創薬を含むライフサイエンスや植物生理学,工学等の分野で複数のプローブを解析できることにより,研究をより高度にするとしている。