北里大学,関西電力大飯発電所,福井大学,東北大学,都立産業技術高等専門学校,東京大学の研究グループは,開発した小型・可搬型測定器を用いて,稼働中の原子炉で発生した反電子ニュートリノを地表において観測することに成功した(ニュースリリース)。
稼働中の原子炉内では,大量の反電子ニュートリノが発生している。これは「原子炉ニュートリノ」と呼ばれ,ニュートリノ振動の研究などの素粒子物理学の研究に用いられてきた。
過去の原子炉ニュートリノの測定は,大型(10-1000トン)の測定器を,環境放射線や宇宙線の影響の少ない,大深度地下施設に設置することにより行なわれてきた。
研究グループでは,プラスチックシンチレーターを用いた小型(1トン程度)の測定器を開発し,地表において原子炉ニュートリノを観測するための研究に取り組んできた。
2019年5月から8月にかけて,開発した原子炉ニュートリノ検出器(PANDA)を,関西電力大飯発電所4号機付近(炉心から約45m)に設置して測定を行なった。
得られた測定データを用いて,原子炉の稼働期間と停止期間の信号数の差から,原子炉ニュートリノのエネルギースペクトルを有意に測定することに成功した(統計有意度 4.5以上)。原子炉ニュートリノの地表での小型測定器による観測は世界でも例が少なく,国内では初めての結果となる。
今後は,検出効率の向上や背景事象の除去性能を高めることにより,さらに小型・短期間で測定可能な検出器の開発を目指すという。地表での原子炉ニュートリノの測定技術は,原子炉の不申告稼働に対する査察や,新型原子炉の開発に用いられる技術につながる。
また,新しい素粒子物理学実験のアイデアを実現するための,基礎技術になり得るとしている。