早大ら,雷雲のガンマ線イメージングに成功

早稲田大学,理化学研究所,大阪大学は,放射線の一種であるガンマ線を可視化することができる高感度のコンプトンカメラを開発し,世界で初めて雷雲から生ずるガンマ線のイメージングに成功した(ニュースリリース)。

雲の中では稲妻として光や音のほか,強い電場で電子が加速され,X線やガンマ線を放出する。雷から生ずるガンマ線には,継続時間が数百ミリ秒と短く,稲妻放電と完全に同期する「ガンマ線フラッシュ(Terrestrial Gamma-ray Flashes: TGF)」と,稲妻とは同期せず,継続時間が数分間にも及ぶ「雷雲ガンマ線」がある。

雷雲ガンマ線は雲の中で雪崩的に増えた相対論的な電子が起こす特殊な放射(制動放射)と考えられているが,雷雲中の「どこで」「どのように」電子が加速されているのかについては,いまだ十分に理解されていない。

これまでの観測装置は,ガンマ線が到来した方向,すなわち雲の中の位置まで特定することができず,新たなイメージング装置が求められていた。

研究グループは,2019年から検出器の一種であるシンチレータを用いた予備測定を開始し,2021年冬季から独自に開発したガンマ線可視化装置「コンプトンカメラ」を設置し,雷雲の直接イメージングに挑んだ。

ガンマ線は目に見えず,また粒子としての性質が強いため,レンズや反射鏡を使ってイメージングすることはできない。コンプトンカメラはガンマ線が検出器に入射すると,エネルギーの一部を電子に渡し,自らは別な方向へ散乱される「コンプトン散乱」と呼ばれる反応を起こす。

コンプトンカメラでは「散乱体」と「吸収体」で電子と散乱ガンマ線,両方の運動学を同時かつ正確に解くことで,入射ガンマ線の到来方向を決定する。今回,研究グループは,10×10cm2,散乱体3mm厚,吸収体5mm厚のコンプトンカメラを観測サイトに設置し,ガンマ線強度の変動,スペクトル測定と併せて「イメージング」に初めて挑戦し,世界で初めて雷雲を直接ガンマ線でイメージングした。

コンプトンカメラでは視野をさえぎるものが一切無く,広い視野(視野中心から±70°)を同時に俯瞰できるため,いつ,どこで雷雲からガンマ線が発生しても,感度良くとらえることができる。研究グループはコンプトンカメラを毎年3個ずつ程度製作し,多くの拠点展開を目指す。

さらに,今回のコンプトンカメラは,150キロ電子ボルト以下のガンマ線に感度がないため,新発想による広帯域ハイブリッド・コンプトンカメラの導入も考えているという。一般に,ガンマ線の到来数は低エネルギーほどイベント数が多く,より多数のイベント検出が容易になることが見込まれるとしている。

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