京都産業大学らの研究グループは,近赤外高分散分光器WINERED(ワインレッド)を同大学神山天文台の荒木望遠鏡(口径1.3m)に装着し,おうし座方向の星形成領域に存在する前主系列段階にある13個の中質量天体を観測した(ニュースリリース)。
観測から得られたスペクトルには,星周辺からの質量流出の兆候を示す水素原子(パッシェンβ線,波長λ=1282.2nm)やヘリウム原子(波長λ=1083.0nm)などのラインが検出された。
前主系列段階にある中質量星は,100天文単位にも広がる原始惑星系円盤のうち,中心星からわずか0.3天文単位の位置にある円盤最内縁部のダスト円盤がやや早いタイムスケールで消失することが知られており,円盤最内縁部と円盤全体の有無により,円盤の進化段階を見積もることが可能となる。
全ての進化段階の星についての得られたスペクトルを詳細に解析したところ,最内縁部まで円盤が存在する段階(フェーズ1)では恒星からの双極方向のガス流(恒星風)による質量流出が優勢であるのに対し,最内縁部のみが消失した段階(フェーズ2)では円盤内側のガス流(円盤風)が優勢となり,円盤全体が消失した段階(フェーズ3)では,恒星風と円盤風がともに見られないという結果が得られた。
これらの結果より,前主系列星における星周辺での物質流出プロセスが,円盤最内縁部の不透明度に依存するという物理描像を初めて提案した。
この研究のもう1つの大きな成果として,前主系列星において,彩層由来のヘリウム原子による吸収線(波長λ=1083.0nm)を初めて検出した。この吸収線は,星の彩層活動に由来することが知られているが,これまでの前主系列星の観測(主に小質量星について)では検出されなかった。
この活動はしばしば,紫外線やX線といったエネルギーの強い光が大量に降り注ぐ環境で見られる。そのため,今回の結果は,これらの星が非常に若い段階から非常に活発に活動していることが明らかとなった。たとえこれらの星の円盤中で地球のような惑星が形成したとしても,生命が誕生するにはあまりに過酷な環境であることが予想されるという。
今回の成果により,円盤最内縁部の観測は,原始惑星系円盤の物質流出メカニズムの解明に直結する可能性が指摘された。若い星において,密度の高い円盤の内縁部を直接観測するためには,可視光に比べてガスやダストにさえぎられる影響が遥かに小さい近赤外線での観測が必須となる。
研究グループは世界トップの感度を誇るWINEREDを用いて,今後も様々な進化段階の天体を観測することで,恒星の進化を明らかにすることが期待できるとしている。