東京工業大学,東京大学の研究グループは,全固体リチウム電池と類似した薄膜積層構造を持ち,超低消費エネルギーと多値記録を特徴とするメモリ素子の開発に成功した(ニュースリリース)。
コンピューターの利用拡大とともにエネルギー消費量は増大し続けており,半導体素子の消費エネルギー低減は喫緊の課題となっている。研究グループは,全固体リチウム電池の構造と動作メカニズムに注目し,情報を電圧として記憶する低消費エネルギーの電圧記録型メモリ素子の開発に取り組んだ。
この研究では,半導体素子作製技術として汎用的なスパッタリング法などの薄膜作製手法を活用した。また,低電池容量を実現するための正極材料として,リチウムと合金を形成しないニッケルを選択した。
ニッケル下部電極(Ni)上に固体電解質薄膜(Li3PO4)を形成し,その上にリチウム薄膜(Li)を形成することで,積層構造のメモリ素子を作製した。
その結果,ニッケル下部電極上に極薄の酸化ニッケル(NiO)が自発的に形成し,非常に容量が小さい全固体リチウム電池として動作することが明らかになり,メモリ素子として動作することを実証した。
メモリ動作に要した消費エネルギーを算出したところ,8.8×10−11 J/µm2となり,これは,現行のパソコンに使用されているDRAM(>4×10−9 J/µm2)の1/50程度の値に相当する。また,このメモリが3種類の異なる電圧状態を記録でき,3値記録メモリとしての動作を実現していることがわかった。これは記録の高密度化に繋がる結果となるという。
こうした3種類の安定状態(低電圧,中電圧,高電圧状態)のうち,最も安定な状態を探るために,作製したメモリ素子を加熱し,60℃と100℃でメモリ動作を試みた。その結果,中電圧状態が最も安定であることを確認した。
また,ラマン分光測定を用いて消費エネルギーの低減と多値記録の発現が,ニッケル電極上に生じた極薄の酸化ニッケル膜と,固体電解質内を移動するリチウムイオンの間で発生する多段階反応に起因していることを明らかにした。
今後は,電池容量を究極に小さくした電池を作製することにより,電圧記録型メモリ素子のさらなる低消費エネルギー化が可能になるという。さらに,人工知能技術のさらなる発展に向け,人間の脳の動きを模倣した脳型コンピューターへの応用も期待されるとしている。