東北大ら,光による磁気スイッチの新原理を発見

東北大学,中央大学,名古屋大学は,磁気秩序を持たないキタエフ量子スピン液体物質(α-RuCl3)に光(円偏光)パルスを照射した瞬間,磁化が発生することを発見した(ニュースリリース)。

逆ファラデー効果は,光による磁化の発生や高速制御の原理として知られており,次世代の光磁気メモリなどに応用できると期待されている。

しかし,その対象物質は,おもにスピンの方向が固定された反強磁性体や弱強磁性体などに限られおり,スピンの向きを変えるために比較的高いエネルギーが必要で,スピンの向きが変わる速度が低いことが問題だった。

今回研究グループは,量子スピン液体物質において,スピンが交互に向いたまま凍結した“スピンの固体”である反強磁性体や弱強磁性体と同様に,光照射による逆ファラデー効果で磁化が生じることを発見した。

α-RuCl3は,4d遷移金属のルテニウムイオンがハニカム格子状に並んだ結晶構造を持ち,室温から極めて低い温度(T>TN=7K(摂氏266度))まで,スピンの向きは定まらない。このことは,磁石としての性質を持たない量子スピン液体であることを意味する。

特に,α-RuCl3の量子スピン液体は,量子コンピュータへの応用が期待される「マヨラナ粒子」との関係から注目を集めている。この特殊なスピン状態が形成される上で,スピン軌道相互作用が重要な役割を果たしている。

最近,このスピン軌道相互作用に関係した光励起状態(スピン軌道励起子)が,波長1~3μm程度の通信波長帯の赤外光領域に存在することが明らかにされた。

通信波長帯の近赤外光(波長1.4μm,円偏光)をα-RuCl3に照射すると,直線偏光のプローブ光(波長2μm)の偏光方向が回転する。この結果は,試料面直方向の磁化(逆ファラデー効果)が,光励起(パルス幅:100fs)の瞬間のみ発生することを示す。磁化を反映する偏光回転(ファラデー回転)の大きさは,典型的な反強磁性体(酸化ニッケル)に比べ20倍大きいことが分かった。

光磁化の発生機構は,従来の反強磁性体(電子スピンの配列によって磁化が発生)とは異なり,d電子の軌道角運動量が重要な役割を果たすと考えられた。この機構ではスピンを反転する必要がないため,より高速な応答が室温近傍でも期待されるという。

この結果から,反強磁性体,弱強磁性体以外の物質でも室温下の超高速光磁化が予想できる。研究グループは,光磁気メモリ,磁気ヘッドなどの高速操作が可能となる点で,社会的な波及効果が期待できるとしている。

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