東大ら,超放射レーザーの実現に重要な知見

東京大学,理化学研究所,伊モデナ・レッジョ・エミリア大学,仏国立科学研究センターらの研究グループは,中空ファイバー導波路内に導入した原子集団の超放射を観測し,その理論的な解析と組み合わせることで,導波路内の超放射の挙動を明らかにした(ニュースリリース)。

超放射は,原子集団内の原子が自発的に位相を揃えて光を放射する現象で,1954年のDickeの研究以来,量子光学や量子情報などの分野で活発に研究されている。特に導波路中においては,その光軸方向に長い形状を利用して,多数の原子を準備することが容易になるため,より効率良く超放射光を観測できるようになる。

今回研究グループは,中空ファイバー導波路を用いて超放射の実験的,理論的な研究を行なった。今回用いた中空ファイバーは,特別なコア(原子を導入する中空の中心部)・クラッド(コアの外周部)の構造を作り,コアを導波する光がクラッドへ漏出することを抑えることで光を導波させている。実験においては,この中空ファイバーの中に極低温ストロンチウム原子集団を導入し,その超放射を観測した。

実験において極低温に冷却された原子は,中空ファイバー中を伝播する光で作られた光格子によって閉じ込められ,原子の熱運動や原子とファイバー壁との衝突によって生じる擾乱を抑制している。また,この定在波は魔法波長と偏光で構成することで,原子の遷移周波数のシフト,線幅の増大を抑制している。

この原子に対して,励起光を照射することで励起状態にし,その後,原子が基底状態に戻るときに放射される光のうち,中空ファイバーを導波するものだけを検出器で測定した。

このような実験系で得られた結果と理論解析を組み合わせ,導波路中の超放射の挙動を明らかにした。また,超放射の周波数は,励起レーザーの周波数に依存しないことを観測した。

ここで用いられた手法や研究結果は,非常に狭いスペクトルをもつ「超放射レーザー」の実現の重要な基盤技術であり,この超放射を光源として用いる超放射レーザーは,光格子時計の小型化への途を拓き,相対論測地などへの利用も期待されるという。

また将来的には,よりスペクトル線幅の狭い原子遷移を使うことで,原子由来の安定な周波数をその放射光から直接得られる超放射レーザーの実現が可能になるとする。

さらにこの超放射レーザーを光格子時計の光源とすることで,高精度な周波数リファレンスとして利用することにより,微小な周波数変化を重力ポテンシャル計として測地に応用する,相対論測地などへの利用も期待されるとしている。

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