神戸大学の研究グループは,高い増殖能を有する海洋性ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002に遺伝子導入を施し,光と水とCO2から抗酸化物質のアスタキサンチンを高生産する技術を開発した(ニュースリリース)。
さらに研究グループの独自技術である動的メタボロミクス技術を用いて高生産に至ったメカニズムを解析し,遺伝子導入によるβ-カロテン変換酵素の活性増強が上流の一次代謝を活性化させることを明らかにした。
アスタキサンチンは優れた抗酸化特性により,水産養殖,医薬品,栄養補助食品,化粧品産業で広く使用されている。現在,商業用アスタキサンチンの大部分は石油化学前駆体から合成されているが,化学合成の過程で生成する副生成物の存在が問題となり,天然アスタキサンチンの市場需要が増加している。
微細藻類の一種であるHaematococcus属緑藻はアスタキサンチンを高蓄積するため,天然アスタキサンチンの供給源として商用化されているが,細胞の増殖速度が遅いため培養が長期間に渡ることや,ストレスを与えることにより雑菌汚染のリスクが高まることが問題視されていた。
この研究では,増殖速度が速く,雑菌汚染のリスクが低い海水環境下で生育が可能なラン藻Synechococcus sp. PCC 7002に,海洋細菌由来のβ-カロテン変換酵素遺伝子を導入・発現させることで,アスタキサンチンをCO2のみから生産することに成功した。またこの手法ではストレスを細胞に付与せずに,短期間でHaematococcusに匹敵する高い生産性を実現した。
高生産に至った理由を独自のメタボロミクス技術により調べたところ,一次代謝系に含まれるカルビン回路や非メバロン酸経路が活性化していることが示唆された。これは光捕集等に関わるβ-カロテンがアスタキサンチンへ変換したため,枯渇したβ-カロテン等の色素を補うために一次代謝系が活性化したのではないかと考えられるという。
この研究により,光合成による天然アスタキサンチンの高効率製造プロセスの構築に向けて重要な一歩を踏み出したという。今後は,代謝経路の最適化等により,さらなるアスタキサンチンの増産を目指すとともに,さまざまな有用物質の生産に展開するとしている。